白と黒の宴2 31 - 35
(31)
緒方はアキラの背後に回ると煙草を持ったまま髪をすくい上げて首の後ろに自分の唇をそこに這わせた。
そのまま続けて首からアキラの肩にかけて吸い、後ろからアキラの体を抱き締める。
緒方の包容を受けながらふとアキラは社のある言葉を思い出してハッとなった。
『「あいつ」が言った通り、確かに進藤はやっかいな“障壁”や思おたで。』
「…緒方さん、…社に…会ったのですか?」
「…ああ、会ったよ。」
緒方はもう片方の手でアキラの胸と下腹部を弄りはじめていた。
「…緒方さんだったんですね。…社に…進藤に目を向けさせたのは。」
ふいに緒方の手が荒々しくアキラの顎を掴んで自分の方に向け、揺さぶった。
「自惚れるのもいいかげんにしろ。」
その緒方の言葉と態度にアキラは息を飲んだ。
「オレが進藤に嫉妬してそんな事をしたとでも?」
緒方の手がきつくアキラの陰茎を握り込んだ。
「うあっ…!!」
痛みにアキラが屈みかかる。
緒方は煙草を銜えて煙りを吸い込むと、そのまま無理矢理アキラの口を塞ぎ、喉の奥に吹き込む。
「かはあっ!」
苦々しい煙りに喉を刺激されてアキラが咳き込んだ。煙りにむせて潤んだ瞳で緒方を睨み返す。
「…ボクは…進藤を守ります…。」
そう言うアキラを銜え煙草で緒方は高々と抱え上げてベッドルームに運び、
ベッドの上に乱雑に投げ下ろした。
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「あっ…!」
投げ落とされた勢いが余って肩がベッド脇の壁にぶつかり、アキラがうずくまった。
それに気をとめる様子もなく緒方は背を向けて部屋にあったチェストの抽斗から何かを取り出した。
それが鎖がついた拘束具であることにアキラが気がつくのに少し時間を要した。
「い…やだ…」
ベッドの上を後ずさりするアキラの両腕が掴まれて前で合わされ、皮で出来たベルトで固定され、
さらにその拘束具の鎖をベッドのヘッド部分に繋がれた。
アキラは以前ネクタイで縛られた時の事を思い出した。あの時と同じ状態にされてしまったのだ。
緒方が手にしていたものは他にもあり、それを見てアキラは拒絶の意味で首を横に振った。
「イ、イヤ…」
それはやはり薄い皮で出来たアイマスクのようなものだった。表情一つ変えず緒方は
嫌がって首を振るアキラを無理矢理押さえ込み、目隠しをして頭の後ろで金具を留めてしまった。
「緒方さん…!!」
自由を奪われ、更に視覚まで奪われてアキラは怯えた。
抵抗する意志のない、腕力でも格段に自分より劣る相手に緒方がここまでする意図が判らなかった。
ただでさえ今日の緒方には鬼気迫るものがあり、何をされるかわからない雰囲気があった。
手を繋がれたベッドのヘッド近くでアキラは身を縮ませる。
するとドアが開く音がして、緒方が部屋から出て行く気配があった。
しばらくして戻って来た緒方はベッド脇のチェストに何かを置いた。
カランという、グラスに氷の音がぶつかる音がする。グラスに何かを注ぐ音がする。
水割りか何か、酒を呷っているようだった。
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ベッドが揺れて緒方が傍に来た。
両足首を掴まれてアキラの体は仰向けに引き延ばされた。
改めて緒方が自分の体を観察している視線を感じ、羽根をむしり取って吊るした獲物をどう
調理しようかと狩人に思案されているような恐怖感にアキラは身を固くした。
煙草の煙りの匂いが消えない。恐らく緒方は煙草を銜えたままなのだろう。
やがて緒方の指がゆっくりとアキラの身体の表面に触れて来た。
次に触れて来る箇所が分からず、ピリピリとした緊張感の中でアキラの触感が高まり、
もも、腹部、首筋と指が移動する度にゾクリと皮膚の表面を粟立たせた。
その緒方の指のすぐ近くに、ふわりとした熱を感じ、アキラはギクリとした。
緒方は火の点いた煙草を挟んだ指でアキラに触れているのだ。
その指と熱がアキラの胸の突起に差し掛かり身を強張らせた。
「…っ!」
肌に触れるか触れないかのところに煙草の火があるのをアキラは感じた。
まさか、直接押し付けるような事はしないだろうと信じたかったが、どうなるかわからなかった。
やがてその熱は下半身に移動し、ちりちりと音がして卵の白身が焼けるような匂いがした。
「や…っ!!」
僅かばかりに生え揃ってきたアキラの陰毛を緒方は煙草で焼いているのだ。
「…動くと火傷するぞ。」
緒方は煙草の火をアキラのペニスの根元周辺をゆっくり移動させていく。
柔らかで細くそれ程の量のないアキラの体毛はたちまち煙草の灰と共に黒く縮れ落ちていった。
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「ククッ、なかなか面白い画だ。しばらくは他の奴の前で裸になれんな。」
そう言って緒方はアキラの股間に落ちた灰と焼けた毛を息で吹き、指で払った。
その合間にもグラスを呷り、新たに酒を注いでいるらしかった。
屈辱的な行為とせせら笑うような緒方の言葉にアキラは唇を噛んだ。
「…そんなに悔しいですか。ボクが他の男と寝たことが…」
ふいに、下腹部に何かを押し付けられ、アキラは悲鳴をあげ、身を仰け反らした。
「あ…、あ…っ!」
思い掛けない刺激に本当に煙草の火を押し付けられたかと思った。
だがそうではなく、押し付けられたのは氷の欠片だった。ぴりりとした冷たさを一瞬熱さと混同したのだ。
ホッとして息をついたものの、今度は緒方はその氷をアキラの体に這わせ始めた。
「あ、あ…、ん…んっ」
指とは違って冷たい刺激で敏感な箇所を責められ、アキラは身を捩りくぐもった声を漏らした。
特に乳首を念入りに攻撃され、あまりの冷たさに痛みを感じた。
そして緒方に唇を塞がれ、何か液体を飲み下させられた。
「ぐふっ!」
どういう種類のものかはわからなかったが相当アルコール度数の強い酒で、
瞬時に喉から鼻につんとくる刺激が込み上げ、アキラは激しく咽せた。
そのアキラの顎を捕らえ、二度三度そうして同様に飲まされた。
「う…ん…」
炎を飲まされたように体の内部が焼かれるような熱さを感じた。顔が火照り、意識が浮揚した。
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するとそっと唇を吸われ、そのまま緒方の熱い吐息がアキラの首の上を動き、無防備に
曝された脇の下に行く。刺激に弱い部分舌を動かされてアキラの喉から甘く喘ぐ声が漏れる。
脇の下から胸へと舌は動いて、ひんやりと赤く濡れた突起を捕らえる。
氷によって冷えきった部分を今度は温められ、執拗に愛撫されてたまらずアキラは切なく
声をあげる。
「あ…、は…ア…」
酒によるものか、そうでないのか、アキラの中で激しく燃え上がってくるものがある。
乳首を吸いながら緒方は手をアキラの下腹部に伸ばし、アキラの気持ちを弄ぶように
アキラ自身を指の中で転がし、透明な雫にまみれた先端を指先で嬲る。
「緒方…さん…」
アキラの肉体は緒方を望んでいた。緒方自身に激しく貫かれたかった。
「…来て…」
吐息がかった掠れた声で、アキラは求めた。緒方の上半身が離れ、アキラの両足を開くとその間に
深く体を入れて来た。アキラは受け入れるため身構えた。
だがそこに押し込まれて来たのは、アキラが望んだ緒方の分身ではなかった。
「う、ああっ!!」
それは氷の塊だった。
どのくらいの大きさなのかは分からなかったが、ピリピリとした冷たさでアキラの火口を
焼き、押し広げていく。
「お、緒方さん…!」
緒方の指が届くだけ奥に、氷は収めれられた。
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