再生 31 - 35
(31)
ヒカルの手がアキラの胸をはだけさせ、もどかしげにズボンのファスナーを下ろした。
「し…進藤……?」
戸惑っているアキラを無視して、ヒカルは自分も服を脱ぎ始める。
そして、アキラを押し倒すと、その首筋や胸に舌を這わせた。
「ん…!しん…ど……」
ヒカルの与える刺激に、アキラ自身が反応する。
ヒカルは躊躇うことなくそれを口に含んだ。
愛おしげに懸命に舐めている。
その姿が、視界にぼんやりと映っていた。
アキラは眉根を寄せて、快感に耐えていた。
ヒカルの愛撫は稚拙で、たどたどしかった。
それでも、ヒカルはアキラを確実に昂ぶらせていく。
いつもアキラにされていることを、懸命に辿っているようだった。
進藤―――ヒカルの名を呼ぼうとしたが、口からは吐息が漏れるだけだった。
どうして、突然こんなことをするのか――――――必死で考えた。
だが、ヒカルの唇や舌が、それを邪魔する。
思考が途切れる。自分の吐く息が頭に響く。
「!」
荒く息をつくアキラにヒカルが跨った。
アキラはヒカルを止めようと、体を起こした。
が、それと同時に、ヒカルが腰を落としてきた。
「う…くぅ…」
必死にアキラを中に納めようとする。
「や…め…しんど…」
無茶だ!
ヒカルの準備は、まだ十分ではないはずだ。
ヒカルは目に涙をためている。それでも、やめようとしない。
どうして?進藤?
「あぁ…」
「うぅ―――――――」
ヒカルは、無理矢理、アキラを呑み込んだ。
(32)
一瞬、激しい痛みが背中を駆け抜けた。
その後、鈍い痛みになり、じわじわとヒカルを苛んだ。
涙が頬をつたった。
痛い……痛くて堪らない…
自分でもバカなことをしていると思う。
だけど、今、アキラが欲しかった。
どうしても、欲しかったのだ。
ハァハァと肩で荒く息を吐いた。
アキラも自分と同様に、胸が荒く上下している。
閉じられていたアキラの瞼が、ゆっくりと持ち上がった。
切れ長の美しい目が、ぼんやりとヒカルを捕らえた。
アキラの唇が、何か言いたげに微かに動いた。
ヒカルはそれを避けるように、目を閉じた。
そうして、ゆっくりと腰を動かし始めた。
ほんの少し動くだけでも、痛みが体中を駆けめぐる。
アキラの呼吸だけが、耳に届く。
「ん…あ…ぁあ……くぅ…」
「し…ん…ど……あ…んんン」
痛みを堪えて、ヒカルは動き続けた。
アキラも、それに合わせた。
やがて、ヒカルの中のアキラが、少しずつヒカルを圧迫し始める。
「あぁん…と…や…はぁん…」
「ん…ん…ああ…」
痛みより快感が体を支配し始めた。
アキラと一つになっていると思うだけで、気持ちが昂ぶる。
ヒカルは、その感覚に陶酔した。
「と…や…好き…」
ヒカルにつられて、アキラの動きも早くなった。
少しでも早く、ヒカルを解放しようとしているみたいだ。
「あぁ…とうや……」
ヒカルは大きく息を吐いて、アキラの胸に倒れ込んだ。
(33)
「塔矢がどうしても欲しかったから…」
どうしてこんなことをしたのか?というアキラの問いに、
ヒカルはそう答えた。
ヒカルはぐったりとして、息をするのも面倒だと言わんばかりだ。
ヒカルの汚れた顔と体を、濡れたタオルで奇麗に拭いた。
傷ついた下半身に触れると、ヒカルが僅かに身をすくませた。
本当は、奇麗に洗った方がいいのだが…。
アキラがそう言うと、ヒカルはふらふらと立ち上がった。
アキラに支えられて、浴室に入った。
体を洗っている間も、ヒカルはまるで人形のようだった。
いつもは嫌がる行為にも素直に応じた。
進藤――――
ヒカルを寝かしつけた後も、アキラは眠れなかった。
アキラの目には、ヒカルが自分で自分を傷つけているように見えた。
そう…まるで罰を与えているかの様だった。
良くない考えが頭を過ぎった。
それを振り払おうと、軽く首を振り、そっとベッドから抜け出た。
アキラは水を飲みに台所へと立った。
ふと見ると、床の上にヒカルのリュックが無造作に置かれている。
持ち上げた時、外付けのポケットからキーケースが転がり落ちた。
慌ててそれを拾い上げた。蓋が開いている。
鍵は三つ。
見覚えのある鍵が、二つあった。
一つはこの部屋の鍵――――もう一つは―――――!
アキラの胸に靄のような不安が広がった。
(34)
「塔矢――?」
ヒカルは寝起きのちょっとかすれた声で、アキラを呼んだ。
返事はない。
部屋の中にアキラはいなかった。
「今日も仕事かな?こんな早くから――」
寝ぼけた頭で、他の部屋を徘徊する。
テーブルの上には、ヒカルのリュックが置いてある。
リュックに手を伸ばそうとして、ギクリとした。
中に入れたはずのキーケースが、リュックと並べて置いてあった。
見られた―――――――――――?
アキラは怒って出ていったのだ。
ヒカルはペタリと座り込んだ。
涙があふれてきた。
小さな子供みたいに、わあわあと声を上げて泣いた。
(35)
「ただいま」
アキラが部屋に入ると、ヒカルが床の上に伏せて、大泣きしていた。
「進藤…!どうしたんだ?」
驚いて側に駆け寄った。
ヒカルが、はじかれたように涙に濡れた顔を上げた。
大きく目を見開き、そして、顔を歪ませた。
アキラにしがみついて、また泣き始めた。
「ど…どこ……行って……たん…だ…よぉ…」
「ご飯を買いに行っていたんだよ。ほら。」
しゃくり上げるヒカルに、コンビニの袋を見せた。
「黙って……行くな…よ…」
ごめん―――と一言謝って、ヒカルの背中を撫でた。
ヒカルの手に、キーケースが握られているのが見えた。
ああ…それでか――
確かに、気にならないと言えば嘘になるが…。
いや、はっきりと言って気になる。
本当はあの鍵を取り上げて、投げ捨ててしまいたい。
緒方さんに会わないでくれ―――――と、叫びたい。
だが、ヒカルがアキラを必要としている以上に、アキラにはヒカルが必要だった。
ヒカルの手を自分から離せるほど、強くない。
無理強いして、ヒカルが離れていくことが怖かった。
けれど、自分の知らないところで、緒方とヒカルはますます親しくなっている。
自分だけが置き去りにされているような気がした――――。
「―――さんの鍵……か…」
アキラは小さく呟いた。
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