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(31)
「塔矢ッ!」
青ざめたヒカルがアキラに馬乗りになっている男に飛びかかる。だが、もう一人にすぐに取り押さえられる。
「お前はここで一緒に見学してな」
暴れるヒカルをいとも簡単に羽交い締めにすると、耳元でそう囁き、いとおしそうに耳たぶを舐める。
「ははっ!そりゃいい。なぁ、じっくり見ててくれよ?」
動向を見守っていた男も上ずった声で応える。
「お友達の進藤君も塔矢君のイヤラシイかっこ見たいって。じゃあいいとこみせないとなぁ?」
今度はアキラに顔を向け、ハァハァと荒い息をはく。
はたして何人目だろうか、こういう…下卑た人間を目の当たりにしたのは。その狂気に満ちた目が自分の幼い頃の記憶を呼び覚ます――――頭になど留めておきたくない過去。
アキラにはそれがいくつもあった。全て忘れ去ってしまいたい。だがアキラがいくらそう願っても、小さかった自分が受けた衝撃は、消えてくれない。
『みんなには内緒だよ。こんな事がバレたら困るのは塔矢先生だからね…』
荒い息をつき、血走った目をさせて最初の男は呟いた。狭い部屋で服を脱がされ…貫かれた。
ただ泣く事しかできなかった五歳の僕。それから幾度となく似たような体験をした。
凌辱を、されるがままに受け入れていたそんな僕が変わったのは、進藤と出会ってからだ。
彼に恥じない打ち手に…人物になりたくて。
なのに…
(32)
逃れられない環境ならばと、盤上にすべてを賭けることですべてを「ないこと」にしてきた。
でもいつからか、同じ刺激を繰り返されることで自分の体が女のように反応し始めた時のあの屈辱・・・
「最近感度がよくなってきたじゃないか、楽しんでるんだろう?」
思わず知らずに声を上げつづけてしまった時がある。
ある男に初めてそういわれた後、一人になった夜、皿を部屋の床にたたきつけて泣いた。
もう死んだほうがましだと思った。
でも、そんな憎い相手を
一人、また一人と盤上で打ち負かすようになってからは皆気まずくなったようにボクに手を出さなくなっていた。
勝ったと思った、自分の力で。
なのにいまさら、何でこんな連中に・・・
(33)
「オレ、実はこいつにしてみたかったことがあるんだ」
「どういうことだよ」
下卑た声のやり取りにアキラははっと我に返った。
「やっちまう前にさ。一度、こうしてみたかった」
上半身の制服を背後に引き下ろしたまま腕にまとめ、緊縛したような姿勢になると男は背後から力いっぱいアキラの細い体を抱きすくめた。
「はうっ・・・」
息も出来ないきつい抱擁に、アキラの口から苦しげな声が漏れた。
タバコ臭い息が首筋にかかる。
男の手は、アキラのバラ色の乳首に触れ、指先で器用に、優しく、もみしだいた・・・女にするように。
「あ、やめ・・・」
そのあとに、抑えようもなく続く小さな喘ぎ声。
(誰か、この口をふさいで!!)
アキラは激しく首を振った。
「・・・たまんねぇ、コイツ、女みたいなにおいがする・・・」
ふいにアキラの体から発散され始めた、青い色の花のような清冽で甘い香りがヒカルのところまで漂ってきた。
(あ、これ・・・!!)
ヒカルの脳裏に、ひとつの記憶が呼び覚まされた。
いつだったか、冗談混じりで、詰め碁の問題集を見つめているアキラに忍び寄り背後から思い切りくすぐったことがある。
その瞬間、聞いたこともないような甲高い声をあげて、アキラは反り返って笑った。
あんまりはっきりした反応に、ヒカルは思わずいった。
「オマエ、女みたいな声出すんだな、おもしれエ」
次の瞬間、紅潮した顔でアキラは怒鳴り返していた。
「二度とするな!!」
その目が、涙ぐんでいるように見えた。
そのときも、この甘い香りがしていた・・・
(34)
男が片方の手はアキラの胸を揉みしだきつつ、もう方の手を股間へと降ろす。そのまま半勃ちになっていたそこを下から上へと指で辿っていく。
「あっ…!」
ズボンの上からなぞられ、アキラが甘い声を発した。男は夢中になったように首筋を愛撫している。甘い香りが強くなった気がした。男は胸の愛撫を止め――首筋を貪るかのような愛撫はそのままに――左腕でアキラを固定し、右の手で制服のズボンのチャックをゆっくり下ろしていく。ズボンの前を開けた今でも、屹立したそれは苦しそうに見える。男はブリーフの中に手を忍ばせ、先走りの液が零れるソレを固く握り締める。
「ンンっ…」
張りつめたモノを握られ、微かに腰を引く仕草をした。男はアキラ自身を乱暴に擦り始めた。
アキラが苦痛の声を上げる。だが痛いくらいの刺激がやがて快感へと変化したのか、いつしか切ない声が吐息と共に聞こえるようになっていく。
「ンッ…ハァ…ハァ・ア…ハッ…ハッ」
アキラのあえぎ声に合わせて、男の手のピッチも上がっていく「ハッ…ハァッ…アッアッ・アァッ」
アキラが切なそうに顔を歪めて、かぶりを振る。もうイキそうだ、と誰の目にもソレが見て取れた時。男の手の動きが止まる。
「ハァハァハァハァ」
イク寸前で放置されたアキラの息が荒い。
アキラが顔を上げると、こぼれそうなまでに瞳を見開いたヒカルと目が合った。呆然とした面持ちでアキラを見ている。ズボンの上からもヒカルの股間が僅かに勃ち上がっているのが見て取れる。やるせなくなって、アキラは肩で息をしながら視線を地面に落とした。
ふと、男の右手がアキラのお尻をやんわりと揉みしだく。吸いつくかのようなその肌の感触を楽しむかのように。そしてアキラの菊門へと指が導かれ、ツプと中指を立てた。
「ヒアッ」
身をよじるアキラ。男の左腕にギュッと爪を立てる。ア・ア・と喉の奥から声を出して、男の中指を呑みこんでいく。
「おいおい、どんどん奥まで入っていくぜ?痛いがるどころか絡み付いて離してくれねぇよ。初めてじゃないってわけか。あの無垢な塔谷アキラが男を咥えこんで喘ぐのが趣味ってのは驚きだね」
男は予想外の展開の感想を吐きながらも指を二本に増やしていく。
「くッ…」
その反論できない事実と、今も視姦されているという現実――特に、大きな目を見開いて自分を凝視しているだろうヒカル――がアキラをの興奮を高める。
(35)
男の怒張した陰茎が、憔悴し、虚ろな目をしたアキラの秘所にあてがわれた。敏感になっていたそこに固いものを感じ、アキラがヒッと小さく喉を引き攣らせる。長くは無いが普通よりも太目のソレの先端が、割れ目を割ってゆっくりと押し入ってきた。
「ッ…」
歯を食いしばり、全身から汗を流してその行為から逃れようとするアキラ。だが武骨でがっしりとした手で、細い腰を引き寄せて、男はさらに腰を押し進めようとした。男の顔が恍惚の表情へと変化していく
「っあぁ…キツイくてッ最高だ…アキラ…」
慎ましい秘花は男の欲望を深々と受け入れ、男を喜ばせた。本能のままに腰を揺らし、壊れたかのようにアキラの名を呼んでいる。
「と…うや…」
茫然自失のヒカルが言葉を発した刹那、男の動きが止まった。アキラの両足を後ろから抱きかかえるようにして軽々と持ち上げ、そそり立つアキラ自身をもう一人の男とヒカルにしっかりと見えるような体位にしたのだ。
「ッア…いやァッ」
貫かれ揺さぶられる快感に甘い喜悦の声を漏らし、その先端からはとろとろと蜜が零れ落ち、喘ぐ樣を他人に、しかも同時に二人から真正面から見られるなんていうのは、ヒカルが知り得る普段のプライドの高いアキラにとってはこれ以上の屈辱はなかっただろう。
しかし、久方のこの行為によって、アキラの小さい頃から体に教え込まれた快楽が、ムクムクと頭をもたげ、すでにソレに支配されていた今となっては、その恥ずかしい姿もただただアキラの性器を濡らすだけだった。
アキラの、止まることの無い喘ぎ声がそれを証明している。
男はアキラを壊してしまいそうな激しさでアキラを揺さぶっていた
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