少年王アキラ 32
(32)
思い悩むアキラ王の前にオガタンが進み出た。
「恐れながら、我が王よ。金沢競馬場では3連単・3連複はまだ導入されておりません。
その中から再び選び直されてはどうでしょう?」
その言葉を受け、少年王の顔が嬉しげに輝いた。
「そうだったな!ボクとした事がすっかり忘れていた。礼を言うぞ、オガタン!」
過日川崎競馬場にて、3連単(1〜3着を着順に予想する)で国内史上最高配当額の
万馬券を当てたアキラ王は、3連単がマイ・ブームになっていたのだ。
しかし、今年解禁されたその方式は未だ殆どの競馬場では導入されていない。
アキラ王はレッドに思いを馳せるあまり、それをうっかり失念していたらしい。
再び目を閉じ、神経を集中させる。だが―――
「…くッ!」
カッと見開いたアキラ王の瞳には苦い色が浮かんでいた。
「………4−1…」
吐き捨てるように言い放つアキラ王に、可憐な執事が明るい声で答える。
「きゅーてぃーざまごう と ヒカルノホマレ、ですな!」
勝負師・アキラ王は、最終レースまでは馬連単(1〜2着を着順に予想)で稼ぎ、
最終レースでその勝ちをすべて単勝(1着を予想)に突っ込む…しかも全部一点買い、
と漢っぷりのいい買い方を常としていた。
つまり今回の予想は1着・きゅーてぃざまごう、2着・ヒカルノホマレという事になる。
レッドと自分の名を冠した馬のワンツーフィニッシュは儚い夢と消えた…。
「…もういい、下がれ座間!お前は外でポニーにでも乗ってくるがいい!」
「ああ、そんな…!出来ればポニーより三角木馬に…」
座間は王の悋気を買ってしまった事に怯えつつも、思わず甘美な願望を口にしてしまった。
「……オガタン、馬券を頼む」
突き刺すような視線を座間に浴びせ、露骨に背を向けるアキラ王。
罰を待ちわび期待に目を潤ませていた座間は、あからさまな放置プレイに切なげに身悶える。
それを尻目にオガタンはアキラ王に軽く頷くと、部屋内に設置された発売窓口へと向かった。
|