白と黒の宴2 32


(32)
「あっ…!」
投げ落とされた勢いが余って肩がベッド脇の壁にぶつかり、アキラがうずくまった。
それに気をとめる様子もなく緒方は背を向けて部屋にあったチェストの抽斗から何かを取り出した。
それが鎖がついた拘束具であることにアキラが気がつくのに少し時間を要した。
「い…やだ…」
ベッドの上を後ずさりするアキラの両腕が掴まれて前で合わされ、皮で出来たベルトで固定され、
さらにその拘束具の鎖をベッドのヘッド部分に繋がれた。
アキラは以前ネクタイで縛られた時の事を思い出した。あの時と同じ状態にされてしまったのだ。
緒方が手にしていたものは他にもあり、それを見てアキラは拒絶の意味で首を横に振った。
「イ、イヤ…」
それはやはり薄い皮で出来たアイマスクのようなものだった。表情一つ変えず緒方は
嫌がって首を振るアキラを無理矢理押さえ込み、目隠しをして頭の後ろで金具を留めてしまった。
「緒方さん…!!」
自由を奪われ、更に視覚まで奪われてアキラは怯えた。
抵抗する意志のない、腕力でも格段に自分より劣る相手に緒方がここまでする意図が判らなかった。
ただでさえ今日の緒方には鬼気迫るものがあり、何をされるかわからない雰囲気があった。
手を繋がれたベッドのヘッド近くでアキラは身を縮ませる。
するとドアが開く音がして、緒方が部屋から出て行く気配があった。
しばらくして戻って来た緒方はベッド脇のチェストに何かを置いた。
カランという、グラスに氷の音がぶつかる音がする。グラスに何かを注ぐ音がする。
水割りか何か、酒を呷っているようだった。



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