誘惑 第三部 32


(32)
小言を言うようなヒカルに、アキラが思わず笑いを漏らすと、
「何、笑ってんだよ?」
ムッとした口調でヒカルがアキラを軽く睨んだ。
「いや、キミにお説教されそうだな、と思ったらその通りだったからさ。」
「当たり前だろ。大体、おまえ、バカか?
こんなにまともに歩けないくらいへばってるくせに、だから…」
「だから…何?」
「だから…だから昨夜だってやめようって言ったのに…!」
「それは、無理だな。ボクの方がしたかったんだしね。それに、知らないのか?進藤、男の場合
はね、死にそうになると余計に性欲が強くなるもんなんだよ。」
「おまっ…!なんて事、言うんだよ…!」
「ホントだよ。生存本能っていうか、子孫を残そうっていう本能が働くらしいね。でもまあ、キミと
ボクとじゃ子供なんて出来るわけないんだから、意味がないのかもしれないけど、」
それから、突然楽しいことを思いついたようにクスクスと笑った。
「ボクはキミが男でも女でもどっちでも構わないんだけど、そうだね、子供を作れないって思うと、
ちょっと残念だな。キミが女の子だったら、絶対ボクの子供を産んでもらうのに。」
「おまえ…なに、考えてんだ?」
「ヘンかな?きっと可愛いだろうに、ボクと進藤の子供。そう思わない?
だからもしキミが女の子だったら、さっさと結婚して子供を作って、キミをボクだけのものにして
やるのにな。避妊なんかしたくもないしね。」
何だか妙に身勝手で理不尽な事を言われてるような気がして、ヒカルは脹れ顔で文句を言った。
「おまえ…それじゃ、オレの人生滅茶苦茶じゃないか。」
「どうして?」
「だって、そんなトシで子供なんかできちゃったら何にもできないし…学校だって…」
「学校なんて今だって行ってないじゃないか。」
と、言われると言葉に詰まる。
「あ、でも18にならないと結婚はできないんだっけ。それまで待つのは辛いなあ。」
「つーか、マジに考えんな、そんな事。どうでもいいから、さっさと食え、馬鹿野郎!」



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