落日 32
(32)
焦点の定まらぬ虚ろな目をした少年をそっと床に横たえ、身体の汚れを拭いてやり、衣を着せ掛け
る。掴んだ腕に紅く指の痕が残っていた。肩や肘には擦れて紅い傷が出来ていた。
傷つけようなんて思っていなかったのに。
愛しているのに。
浅い呼吸を繰り返し僅かに眉根を寄せて目を伏せている彼の顔を覗きこみながら、髪をそっと撫で
付けた。そうしてずっと彼の顔に見入っているうちに、ぽたりとしずくが彼の頬に落ち、慌てて自分の
顔を袖で拭った。
「ごめん……」
「おまえは悪くない。おまえは何も悪くない。悪いのは俺だ。だから、」
許してくれなくていい。ごめん。おまえを傷つけてしまって。責めてしまって。
心の中で謝罪を繰り返しながら彼の髪を撫で続けた。また涙が落ちてきたのを感じて、洟をすすり
上げながら、袖で顔を拭った。こんなにも涙が止まらない自分の愚かさが哀れだと思った。
―――それでも、それでもおまえが好きなんだ。
見つめるうちに彼の顔が安らいでくる。眠っている彼は幼子のようで、見ていると胸が締め付けられ
るようだ。
薄紅色の柔らかな唇にくちづけを落としたかった。
せめてもう一度触れたかった。
そう思いながらずっと眺めていたのに、それでも、どうしても触れる事が出来なかった。
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