初めての体験 Asid 32


(32)
 最後に強く老人自身を打ち据えた。本因坊は、「ひぃっ!」と大きく息を吸い込むと、
とても老人とは思えぬ勢いで、汚汁をまき散らしながら果てた。
 その姿の醜さに目を背けたくなった。涎にまみれた弛緩した口元。どんよりとした瞳。
己の吐き出した液体に汚れる干からびた下半身。そして、浅ましくもまだ、存在を誇示している
本因坊自身。
 ボクは、本因坊を冷静に観察しているうちに、自分の誤りに気がついた。ボクは今まで、
老人を同じ趣味の持ち主だと思っていたのだが…もしかして…もしかすると………。
 突然、ボクの思考は遮られた。 
「うで…腕が痛い…はずしてくれ…」
老人が呻いたのだ。後ろ手に縛られた腕が、身体の重みでよけいに痺れるらしい。
「へえ…辛いと言う割に、ここはずいぶんと元気なようですが…?」
足で、思い切り踏みつける。靴を履いていないのが残念だ。この靴下は捨てて帰るか…。
老人の息が瞬間止まった。だが、目には情欲の色が濃く浮き出ている。
 ボクはベルトを放り投げると、本因坊の側から離れた。老人の顔に戸惑いと絶望が浮かんだ。
壁に寄りかかって、老人を眺める。身体を捩らせたり、足をもぞつかせている。時折、
何か言いたそうにボクを見る。その訴えるような視線を冷たく無視した。



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