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(32)
逃れられない環境ならばと、盤上にすべてを賭けることですべてを「ないこと」にしてきた。
でもいつからか、同じ刺激を繰り返されることで自分の体が女のように反応し始めた時のあの屈辱・・・
「最近感度がよくなってきたじゃないか、楽しんでるんだろう?」
思わず知らずに声を上げつづけてしまった時がある。
ある男に初めてそういわれた後、一人になった夜、皿を部屋の床にたたきつけて泣いた。
もう死んだほうがましだと思った。
でも、そんな憎い相手を
一人、また一人と盤上で打ち負かすようになってからは皆気まずくなったようにボクに手を出さなくなっていた。
勝ったと思った、自分の力で。
なのにいまさら、何でこんな連中に・・・
(33)
「オレ、実はこいつにしてみたかったことがあるんだ」
「どういうことだよ」
下卑た声のやり取りにアキラははっと我に返った。
「やっちまう前にさ。一度、こうしてみたかった」
上半身の制服を背後に引き下ろしたまま腕にまとめ、緊縛したような姿勢になると男は背後から力いっぱいアキラの細い体を抱きすくめた。
「はうっ・・・」
息も出来ないきつい抱擁に、アキラの口から苦しげな声が漏れた。
タバコ臭い息が首筋にかかる。
男の手は、アキラのバラ色の乳首に触れ、指先で器用に、優しく、もみしだいた・・・女にするように。
「あ、やめ・・・」
そのあとに、抑えようもなく続く小さな喘ぎ声。
(誰か、この口をふさいで!!)
アキラは激しく首を振った。
「・・・たまんねぇ、コイツ、女みたいなにおいがする・・・」
ふいにアキラの体から発散され始めた、青い色の花のような清冽で甘い香りがヒカルのところまで漂ってきた。
(あ、これ・・・!!)
ヒカルの脳裏に、ひとつの記憶が呼び覚まされた。
いつだったか、冗談混じりで、詰め碁の問題集を見つめているアキラに忍び寄り背後から思い切りくすぐったことがある。
その瞬間、聞いたこともないような甲高い声をあげて、アキラは反り返って笑った。
あんまりはっきりした反応に、ヒカルは思わずいった。
「オマエ、女みたいな声出すんだな、おもしれエ」
次の瞬間、紅潮した顔でアキラは怒鳴り返していた。
「二度とするな!!」
その目が、涙ぐんでいるように見えた。
そのときも、この甘い香りがしていた・・・
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