光彩 32 - 35
(32)
ヒカルはアキラのアパートに行った。
部屋の灯りは消えている。
帰っていないのかもしれない。
インターフォンを押してみた。返事はなかった。
そっとノブに手をかけた。
開いている。
暗い部屋の中へ呼びかけた。
「塔矢ぁ? いないのか?」
アキラを呼びながら、中へ入っていく。
いきなり後ろから抱きつかれた。
そのまま、引き倒される。
腕を押さえつけられ、床に縫い止められた。
「塔矢・・・。」
真上から自分を見つめる人物に声をかけた。
暗くて表情は見えない。
その顔が近づいてきた。
さらさらとした髪が、ヒカルの頬にかかる。
かすめるようにキスをされた。
ヒカルは目を閉じて力を抜いた。
もう一度、今度は深く唇を重ねてきた。
息苦しい。
頭が変になりそうだった。
「どうして抵抗しないんだ?」
唇を離して、塔矢がきつい口調で聞いてきた。
暗闇の中で、自分を睨んでいるようだ。
「緒方さんとしちゃったから、お情けでボクともしてくれるの?」
「!!」
誤解だ!緒方先生は何もしていない。だって先生は・・・。
誤解を解こうと開きかけた口を、再び塞がれた。
噛みつかれたと思った。
舌が入ってくる。
アキラの舌で口の中を愛撫された。
たどたどしくヒカルも応える。
どうすればアキラを慰められるのか、ヒカルにはわからなかった。
ただ、アキラの望むままに従おうと決めていた。
アキラが自分を好きにしたいというのなら、それでもかまわない。
塔矢を離したくない。絶対に。
アキラの思いに懸命に応えた。
体がふるえるのはしょうがない。
ヒカルにとっては初めてのことなのだから。
アキラは掴んでいた腕を離し、ヒカルの唇を解放した。
ヒカルの前髪を梳きながら、呟いた。
「ごめん・・・。進藤。ごめん。」
アキラは、何度もごめんと繰り返す。
ヒカルの頬に雨の雫があたった。
(33)
これは八つ当たりだ。
ヒカルには、何の責任もないのだ。
緒方の言葉を信じたわけではなかった。
ただ、緒方との関係を知られたくなかった。
ヒカルに自分の浅ましさを知られたくなかった。
ヒカルの瞳には、きれいな自分を映したかった。
それは、もう叶わない。
それでも、ヒカルが欲しかった。
どんな方法でもいいと思った。
そのために、ヒカルを侮辱し、辱めたのだ。
ボクは卑怯だ・・・!
緒方さんの言う通り、進藤を愛する資格などない。
アキラは、ヒカルの傍らに力無く膝をついた。
ヒカルもゆっくりと起きあがり、アキラの前に座り直した。
暗い部屋の中でさえ、アキラはヒカルと正面から、
向かいあうことができなかった。
アキラは項垂れた。
ヒカルの視線が痛い。
ヒカルの指がアキラの頬にふれ、涙を拭った。
顔が近づき、アキラにキスをした。
ふれるだけの幼いキスだった。
・・・!驚いた。
進藤はどういうつもりなのだろう。
同情しているのだろうか。それとも・・・。
アキラはヒカルの真意を測りかねた。
暗闇の中、ヒカルの顔は見えない。
しかし、それが同情だとしても、アキラはヒカルが欲しかった。
(34)
暗くて良かった。と、ヒカルは思った。
おそらく自分の顔はトマトより赤いに決まっている。
初めて自分からしたキスだった。
鼻をぶつけなくて良かった。
闇を通して、アキラの困惑が伝わってくる。
もう一度キスをして、アキラの首を抱く。
アキラの体がビクッとふるえ、その手が宙を彷徨った。
アキラは躊躇うようにヒカルの背中に腕を回し、そのまま強く抱きしめた。
しばらく抱き合ったまま動かなかった。
アキラがヒカルの耳元で囁いた。
「?・・・進藤?」
不審そうな、心配そうな声音。ヒカルの行動が読めない。
ヒカルは、アキラを抱く手に力を入れた。
「オレ・・・オレね。塔矢のことが好きだ。」
思い切って告白した。
やっと・・・言えた。心臓がどきどきしている。
そのまま、堰を切ったように話し始めた。
アキラに告白をされたとき、本当は嬉しかった。
それに気づいていなかったのだ。
自分がアキラに避けられて、どれだけ悲しかったか。
自分から離れて行かないで欲しい。
一息にしゃべった。息が切れて苦しい。
アキラの肩口に顔を埋めた。
ゼエゼエという息づかいが、肌を通してアキラに伝わった。
アキラはヒカルを抱いたまま、優しく背中を撫でてくれた。
背中を撫でていた手が、髪や首筋をかすめる。
くすぐったいような、むずがゆいような。
形容しがたい感覚がわいてくる。
直接ふれていないのに、指がどこを辿っているのかがわかる。
もう一度、呟くように言う。
「塔矢・・・好き。」
アキラにしがみついた。
アキラはヒカルの腕を自分の体からほどいた。
ヒカルが離れまいと腕を空で泳がせる。
アキラがその手をとり、ヒカルの指に愛おしげに口づけた。
アキラは今度は優しくヒカルを横たえた。
(35)
あれほど手に入れたいと渇望したヒカル。
ヒカルが自分のものになる。アキラは歓喜にふるえた。
ヒカルのシャツをゆっくりとまくり上げる。
そして、順々に着ているものを脱がしていく。
ヒカルはアキラにされるまま、じっとしていた。
そして、アキラは自分も着ているものを全部取り去った。
肌に直接触れた。愛おしむように、胸からへそのあたりを撫でた。
ヒカルが小さくふるえた。
「怖がらないで進藤。」
酷いことはしない。優しくする。
ヒカルが闇の中で頷いた。
彼は今どんな顔でボクを見ているのだろうか?
もう目は暗闇に慣れていたが、はっきりと顔が見たい。
立ち上がりかけたアキラにヒカルが言った。
「塔矢・・・電気つけないで・・・お願いだから・・・」
声をふるわせて訴えるヒカルに、キスをした。
ヒカルの髪を優しく梳きながら、耳の後ろに口づけした。
「進藤。好きだ・・・」
何度も囁く。何度伝えても伝え足りない。
柔らかい声に安心したのか、ヒカルのふるえは徐々に治まった。
体中をなでさすり、顔、首筋、鎖骨、胸あらゆる所にキスの雨を降らせた。
「あ・・・」
ヒカルが小さく声を上げた。ヒカルの反応を確認するかのように、
何度も同じ場所に口づける。
「や・・・と・・・うや・・・やだ。」
ヒカルが身もだえる。体を捻ってアキラから逃れようとした。
アキラがそこを強く吸って、突起を舌先でなぶった。
「あ・・ん・・んん・・・あぁ」
ヒカルはアキラの肩を掴んで、体をのけぞらせた。
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