初めての体験 Asid 桑原(3)


(32)
 最後に強く老人自身を打ち据えた。本因坊は、「ひぃっ!」と大きく息を吸い込むと、
とても老人とは思えぬ勢いで、汚汁をまき散らしながら果てた。
 その姿の醜さに目を背けたくなった。涎にまみれた弛緩した口元。どんよりとした瞳。
己の吐き出した液体に汚れる干からびた下半身。そして、浅ましくもまだ、存在を誇示している
本因坊自身。
 ボクは、本因坊を冷静に観察しているうちに、自分の誤りに気がついた。ボクは今まで、
老人を同じ趣味の持ち主だと思っていたのだが…もしかして…もしかすると………。
 突然、ボクの思考は遮られた。 
「うで…腕が痛い…はずしてくれ…」
老人が呻いたのだ。後ろ手に縛られた腕が、身体の重みでよけいに痺れるらしい。
「へえ…辛いと言う割に、ここはずいぶんと元気なようですが…?」
足で、思い切り踏みつける。靴を履いていないのが残念だ。この靴下は捨てて帰るか…。
老人の息が瞬間止まった。だが、目には情欲の色が濃く浮き出ている。
 ボクはベルトを放り投げると、本因坊の側から離れた。老人の顔に戸惑いと絶望が浮かんだ。
壁に寄りかかって、老人を眺める。身体を捩らせたり、足をもぞつかせている。時折、
何か言いたそうにボクを見る。その訴えるような視線を冷たく無視した。


(33)
 「と……や…」
本因坊が、か細い、だが、粘るような声でボクに呼びかける。
「ボク、素直じゃない人嫌いなんです。」
汚物でも見るような視線で、ボクは、老人を一瞥した。
「先生は、先ほどからウソばかり…ボクが子供だと思って侮っているんでしょう?」
「これ以上、ボクを騙そうとするなら、ボクはこのまま帰ります。」
老人が、上半身を無理やり起こし、苦しい姿勢から懇願した。
「ま…待て………言う…言うから……全部…」
本因坊は、「本当ですか?」と訊うボクに、何度も頷いて見せた。落ちた…!

 訊きたいことは、たった一つ。進藤のことだけだ。本因坊が何人棋士を連れ込んだか
なんてどうでもいい。この老人がどんな風に進藤を抱いたのか…それが知りたい。
「先生、進藤をどうやって汚したんですか?やはり、薬ですか?」
「そう…じゃ…薬をつかって…身体の自由を訊かなくして…」
 ボクは、詳しく訊ねた。どうしたことだろう?本因坊への怒りは変わらず胸の中に熱く
滾っているのに、老人の口から語られる事実に次第に興奮していく。この醜い老人が、
可憐な進藤をどのように蹂躙したのか想像しただけで…股間が…。―――ヘンだ…。
いくらボクでも、大事な恋人を酷い目にあわされたのに…こんな………進藤、ゴメン。


(34)
 本因坊の唾液や、精液で身体中をどろどろに汚されて…咽び泣く進藤。まるで、その場で
見ていたかの様に光景が浮かぶ。イメトレの成果が、こんなところで発揮されるとは…!
 しかし、本因坊から、ボクの想像を遙かに超えた事実を告げられた。二度目は老人一人では
なかった!指導碁ってそう言う意味だったのか?一体、進藤にナニを指導させたんだ!?
そして、その事実にますます激昂するボク自身……。ショックだ……。頭を強く振って、
想像をうち消そうとした。
 だが、きつく閉じた瞼の裏には、二人の男に押さえ付けられ、本因坊を無理やり受け
入れさせられる進藤の哀れな姿や、屈辱の涙に濡れる愛くるしい大きな瞳がリアルに映っていた。

 ボクは、老人を乱暴に転がすとその後ろの部分に、乱暴に己を突き立てた。進藤の受けた
屈辱はボクがはらす。本音を言えば、コンドームが欲しい。が、この際仕方がない。
「ぎゃあぁ!」
老人が、断末魔のような悲鳴を上げた。ボクが無情に突き上げる度に、老人は派手な
泣き声を上げた。ざ・ま・あ・み・ろ!…だ。
――――――――進藤を犯した老人を、今度はボクが犯している。
 どうしよう。何だか、倒錯的で妙な気持ちになってきた。最初はわめいていた本因坊も
今では、目は恍惚と潤み、口はだらしなく弛緩している。


(35)
 ボクは、老人が達する本当に直前に、自分のものをそこから引き抜いた。老人が悲痛な
叫びを上げた。中途で行為を止められ、老人は尻を高く上げた不自然な体勢のまま、ボクを
恨めしげに見た。ボクは、引き抜いた自分のモノをお手拭きで丁寧に拭って、ズボンの
中へ仕舞った。老人は、絶望的な表情でジッとボクを見つめている。
「これはね、お仕置きです。だって、先生、最初素直じゃなかったでしょ?」
にこにこ笑って、残酷な宣告を下す。
「後の始末は自分でやってください。そこの座布団でもつかって。」
「上手くできたら、次は最後までする事を、考えて上げてもいいですよ。」
極上の笑顔を本因坊に向けた。老人はボクの表情に何を見たのか、次の瞬間、畳の上に
大きな染みをつくっていた。

 ボクは、本因坊をSだと思っていた。元からMだったのか、隠れていたM因子をボクが
引き出してしまったのかはわからない。老人が、あれほど昂ぶっていた理由も、
もしかしたら薬のせいではなく、自分の置かれた状況に酔っていただけかもしれない。
 だが、これだけは断言できる。本因坊は、これからはボクの言いなりになるはずだ!
でも…どうせ、奴隷を手に入れるならもっと若い方が良かった。まあ、囲碁界の重鎮だから、
何かと便利ではあるな。使う気はないが。


(36)
 『ありがとう!桑原先生!』ボクは、嫌々ながらも、取り敢えず心の中で礼を言った。
 先生のお陰でボクは、これからどんな相手でも臆せずやっていけそうです。けれども、先生の
なさったことを、ボクは一生許しません。でもまあ、手に入れた進藤のイメージだけは、大切に使わせていただきます。

 いつものように、ボクの隣で進藤がシステム手帳にメモ書きをしている。鬱陶しそうに、
時折前髪を掻き上げた。その度、奇麗な額がボクの目に入る。額も頬も、ニキビ一つない。
ゆで卵みたいだ。
 ボクは、進藤のすべすべした頬を撫でた。
「んん…くすぐったい…」
進藤が、クスクス笑って身を捻った。可愛い声が、耳をくすぐる。本因坊の前では、
どんな声で囀っていたんだろう。
「どしたんだよ?」
いつまでも頬を撫でるのをやめないボクを、進藤が不思議そうに覗き込んできた。この
艶やかな肌の上を、本因坊の皺だらけの手が這っていたのかと思うとつい……。
「あ…」
頬から、首筋、背骨に沿って指を這わせる。そのまま、更に下へ…。
「ふ…あ…」
服の上から、軽く撫でているだけなのに、進藤は目を閉じてボクにしがみついてきた。
可愛い。ボクは、その場に進藤を押し倒した。
「と…塔矢…?」
戸惑っている。しきりに視線を、隣の部屋の方に向けた。うん、わかってるよ。寝室は
向こうだ。ここは、ボクの家だからね。良く知っているんだ。でもね、ここでしたいんだよ。



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