無題 第2部 33
(33)
深く繋がったまま、背に押し当てられた厚い胸板から発せられる鼓動が、アキラに直接つたわっ
てくる。緒方の心臓がアキラの背で、そして体内で、熱く、脈打っていた。その脈拍にアキラの
脈拍がシンクロして、二人が一つの物体になってしまったように錯覚する。
「アキラ…愛してる…」
耳に届いたその言葉に、アキラは思わず鳴咽をもらした。苦痛からではない、何か別の涙が、
アキラの睫毛を濡らした。けれどその涙が心のどこから、何という感情によってもたらされたもの
なのか、アキラにはわからなかった。
「…アキラ…」
耳元で、もう一度、緒方がアキラの名を呼ぶ。
アキラが泣いているのに気付いたのか、慰めるように、そっと優しくうなじにくちづけると、アキラ
の背が敏感にそれに反応する。首筋から肩にかけてを優しく舌先で愛撫しながら、アキラの身体
を抱きかかえていた手で、喉元から顎へかけてを撫で上げた。
そして、指先で頬を濡らすアキラの涙をぬぐってやる。
「な…ぜ…?」
震える声で、アキラがそう問うた。
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