平安幻想異聞録-異聞-<水恋鳥> 33


(33)
「お前、無駄だったなぁ」
水の中に入った佐為の髪は重く濡れていて、そこから滴る水が、佐為の狩衣の
背中をも濡らしてしまっていたのだ。
「歩いているうちに乾きますよ、これくらい」
ヒカルに手を貸して、立ち上がるのを助けてやる。
「あ、」
ヒカルの視線が佐為を飛び越して、その向こうの虚空を見た。
怪訝に思って佐為が振り返るのと、何か赤いものが視界を横切って林の奥に
消えていくのは同時だった。
その後を追うように、例の鳴き声がする。転がり落ちる鈴のようなそれだ。
「佐為、行ってみよう!」
ふたりして、今度は静かにその林床へ忍び寄った。
下生えをかき分けて行くと、鳴き声とともに、林の木々の枝が交錯する中に
すぐにそれは見つかった。
名前の通り、赤い。
頭のてっぺんから、尾の先まで真っ赤な鳥だった。
「佐為、あれ?」
ヒカルが確かめるように、佐為を見上げる。
「えぇ、そうです」
佐為が昔、どこかの書物で見た通りの姿だった。ただ思ったより大きいのに
驚いた。もっと小鳥のような鳥を想像していたのに、これは鳩ほどもある。
こうして見ると、どうしてさっき見つけられなかったのかと思うほど
華やかな鳥だ。
それが緑の枝から枝へと飛び移る姿は、まるで篝火があちらこちらへ飛んで
移動しているようだった。
「あれって、水の近くにしか住まないんだ?」
そのヒカルの問いに、佐為は唐突に、自分の中で細切れに散らばっていた記憶の
かけらが繋がっていくのを感じた。そうだった、この鳥は。



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