金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 33
(33)
ああ、きっちりしっかり全部思い出してしまった――――
ヒラヒラ可愛いヒカルを見て、ヒラヒラ可愛い金魚を思い出す。小さいところ、元気なところ、
人なつっこいところ、全部重なる。恋にも似た甘酸っぱい感情まで全部全部。おまけに
あのころの自分のバカな独占欲――今もあんまり変わっていないが――まで思い出して、
がっくりと項垂れた。あの時、もう意地を張るのはやめようとあんなに誓ったのに………
『ボクは、全然成長してない…』
アキラは、まだグズグズと泣いているヒカルの方をチラリと見た。両手を膝の上に置いて、
スカートを握り締めている。顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
薄暗い電灯の明かりの下でさえわかるくらい、額も頬も首筋まで真っ赤に染まっている。
それがまたあの時の金魚を連想させて、アキラは大きく溜息を吐いた。
その瞬間、ヒカルが弾かれたように顔を上げ、キッとアキラを睨み付けた。
「バカ…バカ…なんで…いつもそんな目で見るんだよ…いっつもそうやって、溜息吐いて…」
ヒカルはしゃくり上げた。
「いつもそうやって…オレが悪いみたいに…」
「え…?いや…ボクは別に…」
アキラの言葉はヒカルの耳に届いていない。ヒカルは涙をポロポロと零しながら、途切れ途切れに
話し続ける。
「オマエがそんなだから…オレは…自分が…悪いみたいな気分になって…」
「オレが男で悪いみたいに…………」
「オレは…自分が…女だったらとか…思ってなかったのに……」
「オマエが…オレを…責め…るみたいに…見るから……だから…」
アキラは頭の中が真っ白になってしまった。
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