落日 33
(33)
佐為。
佐為に会いたい。
どれ程暖かな胸も腕も、どれ程強くきつく抱きしめられても、それでも足りない。
違う。欲しいのはこの腕じゃない。
甘い囁き声も、記憶に残る声と違う。
違う。欲しいのはこんなのじゃない。
佐為。
会いたい。
おまえに会いたい。
他の誰でも、おまえの代わりになんかならない。
佐為。どこにいる?どこに行けばおまえに会える?
なあ?佐為。どこにいるんだよ。返事をしてくれよ。
寒いよ。寒くて凍えそうだよ。
佐為。早く俺を探し出して。
俺を見つけて、そして抱きしめて。
目覚めた時はまた、広い室内に一人取り残されていた。
ふわり、と、懐かしい香りが漂ったような気がして、ヒカルはゆっくりと身体を起こした。
からりと戸を開けて縁側に立ち、更に裸足のまま庭に降り立つ。庭の隅に色とりどりの小菊が咲いて
いた。萩の花はとうに散ってしまったようだが、花びらの名残の残る木の根元には竜胆がまだ咲き
残っていた。
空を見上げると、暮れかけた空に白い三日月が浮かび、月に寄り添うように宵の明星が輝いていた。
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