Linkage 33 - 34
(33)
年も明けたある日曜日、緒方は小野から再度薬を受け取った。
「効果テキメンのようだな?」
小野は緒方の要望で初回より増量した薬を手渡しながら笑った。
「ああ。最初は半信半疑たったが、ここまで効くとは正直思ってもみなかった……」
小野は緒方の言葉に嬉しそうに頷いた。
「薬の量が上手くコントロールできてるみたいで、オレもホッとしたよ」
「そうだな。毎晩きっちり計ってるから、今のところ問題はない。棋士同士の集まりで
酒を飲む日は、薬には手を出さんしな」
緒方はそう言って、小野に金の入った茶封筒を渡す。
「さすがは優等生だな、緒方は」
互いに顔を見合わせて笑うと、小野は茶封筒をコートのポケットにしまい、2人は
手を振って別れた。
小野と別れ棋院に立ち寄った後、緒方は車を自宅へ向けて走らせる。
マンションの駐車場に車を止め、エレベーターホールに向かう緒方をひとりの少年が
呼び止めた。
「緒方さんっ!」
緒方は突然の来訪者に僅かに驚いたが、相手が見知ったアキラだとわかると穏やかに
微笑んだ。
「おや、アキラ君じゃないか。わざわざオレの家まで来るとは珍しいな。
一体どうしたんだい?」
駆け足でここまで来たのか、アキラの頬は幾分紅潮していた。
エレベーターに乗り込む緒方の手招きに従い、弾む息を押さえながら後に続く。
「あの……緒方さん、今日誕生日ですよね?」
アキラの思いがけない一言に、緒方はしばし考え込む。
「……そう……だった…かな?」
(34)
今日が自分の誕生日であることなどすっかり忘れていた様子の緒方に、アキラは
思わず笑い出した。
「緒方さん、自分の誕生日も忘れちゃったんですか?変なところで忘れっぽいんだなぁ!」
緒方はアキラの言葉に苦笑しながら、玄関の鍵を開け、ドアを引いてアキラを中へ通した。
「……で、オレの誕生日とアキラ君の突然の来訪に何か関係があるのかな?」
リビングのソファに腰掛けるようアキラに促しながらそう尋ねる緒方に、アキラは
はにかみながら答えた。
「ボク、緒方さんにプレゼントを渡そうと思って来たんです。もし留守だったらポストに
入れて帰るつもりでいたんですけど、タイミングが良かったみたいですね」
緒方は照れ臭そうに「ハハハ」と笑いながら、前髪を掻き上げた。
「先月オレがプレゼントをあげたからって、小学生のアキラ君からプレゼントを貰ったり
していいのかな?」
アキラはニッコリと頷いたが、僅かに一瞬、戸惑うような表情を浮かべた。
緒方はそれを見逃さない。
「プレゼントだけが理由じゃなさそうだな。言ってごらん、アキラ君」
優しい口調で語りかける緒方をじっと見つめながら、アキラは小さな声で答えた。
「……あの……ボク、緒方さんに相談したいことがあるんです……」
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