誘惑 第三部 33 - 34
(33)
「それじゃあ、ボクが女の子だったらキミはどうする?」
塔矢が女だったら?
デザートに、と、やっぱり買ってきたプリンを食べていたヒカルはスプーンを銜えたまま考えた。
塔矢が女だったらどんなだろう。
……ダメだ。
今だってこんなにキレイなのに、女でこれだけキレイだったらヤバ過ぎる。
それこそ周りがほっとくはずがない。それこそ、和谷だけじゃなくって伊角さんだって越智だって
社だって門脇さんだって、そう、芦原さんとか冴木さんとかだって、皆、ほっとく筈ないじゃないか。
「…ダメだ。」
「…?」
「ダメだ。おまえを野放しになんかできない。
今だっておまえはほっといたらフラフラとあっちこっちの男に引っかかりそうになるのに…」
「…進藤!」
「違うのか?」
「そんな…あっちこっちなんて事、ないだろ!」
「もしおまえが女だったりしたら、危なくって目が離せないよ。
おまえってば自分がどう見えてるかなんて全然わかってないんだから。
おまえ、自分がどんだけ綺麗で周りがどんなふうに自分を見てるかって自覚、全然ないだろ?」
「またか?キミは何かって言うと、ボクのことを綺麗だって言うけど、そりゃ、悪い気はしないけどさ、
でもそんな事言うの、キミだけだよ。自覚って何だよ?キミの主観だけで客観的な話じゃないだろ。」
「そーゆーのが自覚無いっていってんだろ!
そりゃあ、本人に向かっては言わねーだろうがよ、一度ちゃんと鏡見てみろよ。
その上ぱっとみは真面目でご清潔でエッチな事なんか何も考えてません、なーんて顔してるくせに、
ホントはスケベで淫乱でエッチ大好きで、しかもヤるだけだったら誰でもOKなんて尻軽女、危なくて
野放しになんかしとけないよ。」
「進藤っ!!いくらなんでもそこまで言われるほどの筋合いは無い!!」
「違うって言えんのかよ?」
「少なくとも、誰でもOKなんて訳じゃあ、ない。」
少しだけ拗ねたような口ぶりでアキラは言った。
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「じゃあ、和谷とはなんでなんだよ。」
そう問われると、アキラはぷいと顔を横にそむけた。
「ちょっとでもあいつに興味があったとか、好意があったとかじゃ、ないよな。むしろ逆だよな。」
「あれは、キミが悪いんだ。キミがボク以外の相手と仲良くなんかするからさ。」
「あてつけと嫌がらせでやれるなんて最低だぜ?」
「そうだよ。最低だよ。わかってるよ、そんな事。
どうして、今更、そんな話、蒸し返すんだ。」
「もう二度とそんな事させないためさ。決まってるだろ。」
ムッとした顔でヒカルを見ていたアキラは、突然、にやっと笑って、挑戦的にヒカルを見た。
「でもさ、キミが最初に言ったんだよ?
あいつと仲良くしろって、あいつに笑いかけてやれって。違う?」
ムカツク。何だってコイツはこんなにムカツクんだ。
「ああ、それに、そう言えば、この間、芦原さんとキスしちゃった。」
「塔矢、おまえ…」
「キミとの事で落ち込んでたときに芦原さんが飲みに連れてってくれて、
酔っ払って潰れかけて…つい。」
「つい、だってぇ…?」
「でも、さすがにキスだけだよ。それも触れるか触れないか、くらいの。冗談みたいなもんだよ。」
「おまえ…本当に節操無しだな…。」
「キミがいけないんだ。キミがボクを一人にしとくから。」
「塔矢、おまえいー加減に…」
「だからキミは、そんな事ができないように、ボクをずっと見張っていればいい。見張っててくれる?」
呆れる。
何を甘えた事を言ってるんだ、こいつは。
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