パッチワーク 33 - 35


(33)
「違います、ヒカルの彼女(彼氏?)はそこで嫉妬びんびんで私を睨んでいる塔矢君です。」
なんて本当のことここで言えるわけない。きっと、時々だけどヒカルが私と一緒の部屋で寝て
るなんて言わなくていいこと言ったんだろうな。ヒカルが周りに人がいないと眠れないって言
うから同じ部屋で寝てるだけなのに。寝ぼけて私の髪をなでながら「サイ、ここにいたんだ」
って寝言いって抱きついてくることもたまにあるけれど。大体、小六の頃は周りに人がいると
眠れないって言ってたヒカルが今じゃ人がいなきゃ眠れないなんて言うようになるなんてあな
たのせいじゃないの?塔矢君。あなたのところへ泊まるたび襟元とか手首とか服に隠れるか隠
れないかのところにキスマーク付けて。ヒカルはわかっているんだかいないんだか気にしない
けどおばさんには私が付けたって誤解されてる気配濃厚だから、このまえだって試験期間中だ
って言うのにおばさんにばれないように勉強時間削って蒸しタオルで消したのに、またつけて
かえって来るんだろうな。私に対する嫌がらせよね、誤解なのに、私はヒカルのこ
と好きだけどヒカルは私のこと幼なじみだとしか思っていないもの。


(34)
 気が付いたら一緒に来た人たちは入り口近くに集まっていたのであわてて合流しようとしたら
なんか退かれてる?「フ、フ、藤崎さんの彼氏って、進藤プロだったんだ」鈴木さんがどもって
いる。これで鈴木さんがベタベタ寄ってこなくなるのはうれしいけど他の人にまで退かれるのは
困る。「ヒカルは幼なじみなんです。」ヒカルのうちに下宿してるなんて言ったらよけい誤解さ
れそう。「そ、そ、そうなんだ。えーとじゃぁ解散と言うことで気を付けてかえって下さい。」

 次の日、ヒカルはいつもの倍くらいキスマークを付けて帰ってきた。
ヒカルは嬉しそうだけど、私は憂鬱。
塔矢君、嫉妬するならサイって人にしてよ。

パッチワーク 2003年冬 あかり 了


(35)
芦原 2013

娘のゆかりとオセロをしていると電話が鳴り妻がでた。
「あら、アキラくん」
妻の声が明るい。
先日退院し箱根の先生宅で療養を続けているアキラからの電話だったらしい。

娘とのオセロは最初は八子おいていたが、五回連続で勝てば一子ずつ減らしてゆく
約束で今日から三子になった。
娘は一つ空いている隅を取ることに集中して全体を見ることができずこちらの大勝だった。
二局目が終わったところで妻が
「アキラ君の彼女じゃないの。今度紹介してね。」
と言って受話器を置いた。
「訊かなかったの」と妻に尋ねると「明日対局があるって言うんだもの」
とソファに座りクッションを抱き潰しながら応えた。
拗ねている。アキラに聞きたいことがあったのを我慢したせいだろう。
ちょっと、かわいい。
「じゃあ、明日対局のあとで訊いてみるよ」
十連勝で五子から三子まで減らしたのに二連敗になりふくれっ面の娘が
また石を並べはじめた。三連敗になったら口を利いてくれなくなりそうなので
「なんで上手くゆかなかったのか「検討」をしようか。」と娘に言った。
自分の娘に「天使ちゃん」なんて呼びかける緒方さんほど親ばかではないつもりだが
オセロのせいで娘が口を利いてくれなくなるのは辛い。



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