平安幻想異聞録-異聞- 33 - 36
(33)
「佐為……佐為っ…あ……あぁっ……はん……佐為っ…」
佐為がつきあげるたび、ヒカルの全身に軽い痙攣のような、甘いしびれが走る。
中で動く佐為のそれは、大きすぎもせず、小さくもなく、ヒカルには
ちょうどいい量感だった。
内の壁を擦られる感覚に嬌声をあげるのも、どういうわけか佐為の前では
恥ずかしくなかったので、声が漏れでるままに放っておいたら、
「ヒカル、声が大きすぎますよ」
と、佐為に小声で注意された。しかも、その後に
「私が、ヒカルにこんな不埒なことをしていると母上に知れたら、私は
この家から叩きだされてしまいます」
なんて言うものだから、ヒカルは本当に自分の母が佐為を叩きだす光景を
想像して、事の真っ最中だというのに、笑いだしてしまった。
「ヒカル、せっかくいい雰囲気だったのに台なしです……」
「だって、おまえ………あ…」
再び、自分の体の最奥へ潜り込んできた佐為の感触にヒカルは、
息をつまらせる。
わずかに震えるヒカルのまぶたに、佐為は唇で軽く触れると
ヒカルの中の動きを再開する。
「ぁん……ふ…………ふぁ……ん…」
ヒカルの薄く開かれた唇からは、再び、甘い声が漏れ始めたが、
それでも、その声の間にまじる小さなクスクス笑いはなかなか収まらず、
佐為は、ヒカルを再び行為に集中させるのに、ちょっとした苦労をすることに
なってしまった。
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相手の体に『溺れる』というのは、こういうことを言うのかもしれない。
ヒカルは、佐為にゆるく揺さぶられながら、掛け布団の端をきつく噛んでいた。
本当は、思うさま快楽に身をまかせて、声を上げてしまいたかったけれど、
さっきの佐為の言い分ではないが、万が一にも、自分の声に家族が目を
覚まして起きてきて、この場を邪魔されるようなことはさけたかったのだ。
「うっ、くっ、くんっ………」
声に出して、体の外に逃がしてしまえない分の快楽が、ヒカルの体の中に
埋み火のようにたまって、それがより全身の性感をとぎすましていく。
ヒカルが、熱にうかされたような表情で眉をよせているのに、
佐為は心配になって、小さな声でささやいてみる。
「ヒカル……つらいのですか?」
ヒカルが小さくうなずく。驚いて、佐為が自分も途中なのにも構わず、
身を起こそうとしたが、ヒカルの手が、強く佐為の体を捕まえて離さない。
口に噛んでいた布のはしを一時放し、そのままヒカルは、佐為の顔を
自分の方に抱き寄せる。
そして、佐為の肩口に、少し苦しげに上気した顔をうずめ、
涙をうっすらとその目じりに、にじませたまま、
擦れた声でつぶやいた。
「…ヨすぎて……つらい……」
――この少年にこんな顔で、こんなことをささやかれて、
理性の飛ばない男などこの世にいるのだろうか?
ヒカルは、尚深くまで佐為のモノを飲み込んだその瞬間の悦楽に、
くんっと、顎をそらした。
「ぁっ……佐為っ!」
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「ヒカル」
佐為の声が耳をくすぐった。
頂点の一歩手前まで上り詰め、体がふわりと浮くような感覚に、
ヒカルは何か現実感のあるものが欲しくて、自分の足を佐為の足にからめた。
なんだか、体中の感覚がおぼつかない。
(イイ…、イイよぉ…、佐為)
それを佐為に伝えたくて、ぎゅっと、その首に手をまわして、
すがりつくように抱きしめる。
それに答えて、佐為が、そっと鎖骨に口付けし、唇で胸をたどり、
ヒカルの胸のまだ薄い色の突起を口に含んだ。
その行為が、ヒカルに頂点への最後の階段を上らせた。
「んんっ、んんっ、ん……!」
思わず上がりそうになる高い声を飲み込もうと、ヒカルは、
口に含んだ布を強く噛みしめて、その顔を強く布団に押し付ける。
その顎をそっと、佐為がつまんで上を向かせる。思わず噛んでいた布が口から外れ、
外にもれそうになった声を、佐為がその唇で塞いで飲み込んだ。
口付けは、これ以上ないほど甘い味がした。
ヒカルは、やんわりと自分の熱の中心を刺激してくるその佐為の
手の中に、自分自身の白い物を放つ。
佐為の腕が包むように震えるヒカルの背中を抱き寄せた。
恍惚とした多幸感の中、少し遅れて、ヒカルも自分の中が佐為の放った物で
熱く濡れるのを感じた。
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秘め事を終えたあとの部屋は、一時の熱気が去り、不思議な静けさに
つつまれていた。
ヒカルは佐為の胸に顔をうずめてまどろんでいる。
佐為は、そのヒカルの体のあちこちにまだ残る、数日前の暴行のあとを
指でゆっくりたどっていた。
ヒカルの体が、情事の名残だけではない熱さをもっていた。
熱がぶりかえしたのかもしれない。
まだ、傷も癒えぬうちに無理をさせてしまったのではないか?
そんな心配をしながら、指をヒカルの下半身にもすべらせる。
股の内側のひときわ長い切り傷が熱を持ってミミズ腫れのようになっていた。
太ももを手が這う感覚にヒカルが小さくうめいて目を開けた。
「すいません。イヤでしたか?」
「ん〜〜、平気」
そう言って、ヒカルはギュッと佐為に抱きつく。
その声は、情事のなごりで少しかすれていた。
ヒカルが、自分の胸に顔をうずめたまま、ぶつぶつと何かつぶやくのを
耳にして、佐為は何かと問いかけた。
「んー、いい匂いだなぁと思って」
「匂い?」
「うん、佐為って、こういう事した後なのに、あんま汗の匂いってしないのなぁ。
いい匂いがする。何?この匂い」
「あぁ、着物に香を焚きしめてありましたから、その移り香でしょう。
菊の香りですよ」
「菊?」
「えぇ、もう菊の花が咲き始める季節ですからね」
「へぇ〜〜、菊かぁ」
「そうです。季節ごとに焚きしめる香の種類を変えるのですよ」
「ふうん、でも、オレ、この匂い好き。おまえ、ずっとこの香にしろよ」
「そういうわけには…」
「だめ。オレ、これがいい」
そういうなり、腕の中、寝息を立て始めてしまったヒカルに、
佐為は苦笑するしかなかった。
――藤原佐為が、翌年の花見の会にも、季節外れな菊の香をまとって現れ、
参列する貴族たちにけげんな顔をされるのは、また少し別の話になる。
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