金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 34


(34)
 ボクが彼をいつ責めたというのだろうか―――
だけど、全くの濡れ衣と言うわけでもないのが、辛いところだ。確かに、ヒカルが女の子だったらと
思ったことはある。実際、今時小説でもないようなそういうシチュエーションの夢を見て、
慌てたことも一度や二度ではない。
 だが、実際はそんなことがあるはずもなく、ヒカルの笑顔は性別など関係なしにいつでも
自分を魅了した。
 アキラは混乱している頭の中をひとつずつ整理した。
「えーっと、つまり、その恰好はボクの為?」
胸がドキドキしている。もしも、彼も自分と同じ感情を抱いてくれていたら――
 だが、ヒカルはつれなく言い放った。
「違う!オマエのためなんかじゃネエ!酒を飲んだからだ!それで、ちょっと遊んでみただけだ!」
額がくっつくくらい間近にヒカルの顔があった。涙に濡れた瞳がアキラを強く睨んでいる。
「そうだね…キミ、酔っているんだ…だから…そんなこと言うんだ…」
アキラは視線を落とし、また小さく溜息を吐いた。

 「違う!酔ってネエ…!酔ってなんかいねエ………!なんでわかんねえんだよ…」
ヒカルは、アキラにしがみついた。アキラの肩に顔を埋めて泣いている。その背中に躊躇いながら
腕をまわした。
 ヒカルは「酔っている」と「酔っていない」繰り返す。アキラが悩んでいたように、ヒカルも
ずっと悩んでいたのだ。

 「ゴメンね…」
ヒカルの耳に吐息のような声で囁いた。ヒカルがゆっくりと顔を上げて目を閉じた。
『いいのかな?いいんだよね?』
アキラはそっと唇を重ねた。



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