落日 34
(34)
佐為の屋敷を目指して歩き出していた足は、気付いたら違う方向へ向かっていたらしい。
思っていた所と違う場所へ辿り着いてヒカルはなぜここへ来てしまったのだろうかと呆然と門を見
上げた。
なぜ、と思いながら途方にくれてヒカルは辺りを見回し、西の空に浮かぶ白く細い月を見て、ああ、
そうだったのか、と不思議に納得した。
誰もいない事がわかっている佐為の屋敷を訪れるのが恐ろしくて、だから自分は彼に縋ろうとした
のだ。あの白く細い月が、なぜだか彼の事を思い出させて、ここへと足を運ばせたのだ。
けれどしんと静まり返った屋敷を前にして、ヒカルは躊躇した。
「……賀茂…?」
それでも、そっと名前を呼んでみた。
呼べば応えてくれるはずだと言う、何の根拠も無い自信があった。
門扉に手をかけると閂も錠もかけられていない扉はぎいと音をたてて開いた。
けれど彼の呼びかけにも、物音にも、応える者はいない。
屋敷は静まり返り、そこに人の気配はない。
いない?
いない?どこにもいない?
なぜ?どこへ行った?
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