金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 34 - 35


(34)
 ボクが彼をいつ責めたというのだろうか―――
だけど、全くの濡れ衣と言うわけでもないのが、辛いところだ。確かに、ヒカルが女の子だったらと
思ったことはある。実際、今時小説でもないようなそういうシチュエーションの夢を見て、
慌てたことも一度や二度ではない。
 だが、実際はそんなことがあるはずもなく、ヒカルの笑顔は性別など関係なしにいつでも
自分を魅了した。
 アキラは混乱している頭の中をひとつずつ整理した。
「えーっと、つまり、その恰好はボクの為?」
胸がドキドキしている。もしも、彼も自分と同じ感情を抱いてくれていたら――
 だが、ヒカルはつれなく言い放った。
「違う!オマエのためなんかじゃネエ!酒を飲んだからだ!それで、ちょっと遊んでみただけだ!」
額がくっつくくらい間近にヒカルの顔があった。涙に濡れた瞳がアキラを強く睨んでいる。
「そうだね…キミ、酔っているんだ…だから…そんなこと言うんだ…」
アキラは視線を落とし、また小さく溜息を吐いた。

 「違う!酔ってネエ…!酔ってなんかいねエ………!なんでわかんねえんだよ…」
ヒカルは、アキラにしがみついた。アキラの肩に顔を埋めて泣いている。その背中に躊躇いながら
腕をまわした。
 ヒカルは「酔っている」と「酔っていない」繰り返す。アキラが悩んでいたように、ヒカルも
ずっと悩んでいたのだ。

 「ゴメンね…」
ヒカルの耳に吐息のような声で囁いた。ヒカルがゆっくりと顔を上げて目を閉じた。
『いいのかな?いいんだよね?』
アキラはそっと唇を重ねた。


(35)
 初めてのキスは何の味もしなかった。よく言うようなレモンの味もミントの味もしなかった。
強いて言うなら、水の味がしたような気がする。
 ゆっくりと唇を離して、ヒカルの顔を正面から見つめた。大きな瞳が同じように、アキラを
見つめていた。
「…………ビールの味した?」
「しなかった………」
「じゃあ、何の味がした?」
「何も………」
ヒカルが不思議そうな顔をした。
「オレはしたよ?」
「どんな?」
「甘かった…」
それだけでは足りないと思ったのか、彼は少し考え込むように唇に手を添え、続く言葉を探していた。
「…えっと、アイスクリームみたいな味がした…」



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