失着点・龍界編 34 - 35
(34)
ヒカルは三谷とエレベーターで上がり、止まった所で降りるとそこはビジネス
ホテルのように個室が列んでいた。その内の一室に入る。ベッドと鏡のある
洗面台とシャワー室だけの殺風景な部屋だった。
そのベッドに三谷は腰掛けた。安っぽいスプリングが軋む音をたてる。
「あれがカメラだから」
三谷の言葉の意味が分からずヒカルが怪訝そうに天井の片隅のそれを見る。
「つまり…オレとお前のsexを連中に見せるって事。」
ヒカルはカッとなった。
「言う事を聞かないと、先に来たあいつがどうなるか分からないってさ…」
ヒカルは怒りで体が震えた。
「…塔矢はどこに…?まさか、あのマンション…」
「…たぶん」
ヒカルは足元が崩れるような感覚がした。自分があんな目に合い、
三谷がああいう事をされたあの場所に、アキラが…。
とにかく今は三谷の言う通りに指示に従うしか他になかった。
三谷と向き合い、複雑な思いで見つめ合う。が、意を決したように
ヒカルは三谷の肩を掴むと顔を引き寄せた。
さかのぼる事1時間半程前―。
ヒカルが最初に連れて来られたマンションの一室。
雨戸が閉められた和室の中で、アキラは沢淵と碁を打たされていた。
その和室の隣に中央にベッドがある洋室があり、その洋室の向こうにある
玄関のドアの所に一人、見張りの男が立っていた。
(35)
ビルの一室で男達に拘束された時、アキラは罠に落ちたと瞬時に理解した。
身代金目的の誘拐の類いではないことはすぐにわかった。
「…たぶん、進藤君も、すぐに来ます。」
沢淵のその言葉を聞かされたからだった。
ヒカルの携帯がなぜ彼等の手に渡ったのか、詳しくは話されなかった。
ただ、その時、ヒカルが彼等に何をされたかは想像に難くなかった。
今思えば病院でのヒカルの様子が少しおかしかった。ただそれは
交通事故に遭ったショックからだと思っていた。
「とりあえず、ぜひ一度私と打って下さい。」
沢淵は比較的丁寧にアキラにその頼みごとをして来た。
答に選択の余地が無い事は男達の雰囲気でわかった。
彼等が意外に思う程にアキラはその頼みごとを受け、大人しく従い、
この場所まで来た。
アキラの瞳は、拉致される恐怖におののくと言うより、さながら
ヒカルに某かの手を出した連中に対峙するという決意の意志を秘めていた。
「…ボクが勝てばボクを直ちに解放し、ヒカルにも手を出さないと
約束してくれますか。」
沢淵は嬉しそうに頷く。
「もちろんそのつもりです。ただ、私が勝った場合は…」
マンションの和室に正座し、見張り以外の男達を払って沢淵は言葉を続けた。
「…一晩だけ、私と過ごしていただけますか、塔矢アキラ先生。」
その言葉が意味するところをアキラは理解していた。
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