初めての体験+Aside 34 - 35
(34)
アキラはヒカルの口からパーカーを取った。自由になった唇から、ハァハァと荒い息が
吐かれた。
「……ひどいよ…オレ…ヤダって言ったのに……」
ヒカルが涙声で訴えた。アキラはヒカルの目尻に浮かぶ涙を拭うと、
「ゴメンね…どうしても進藤としたかったんだ…」
と、言った。一緒に眠るつもりだったのに、ヒカルがつれない態度をとったこと、
我慢するつもりだったけどどうしても耐えられなかったことを告げる。
「許してくれる?」
と、額同士を押しつけながら囁いた。ヒカルはちょっと目を伏せて、コクンと小さく頷いた。
社の目には見えないが、きっと頬を染めているに違いない。
アキラは用意していたタオルでペニスを拭いながら、ヒカルから抜け出た。そして、
ヒカルの汚れた下半身を手早く拭いた。
「塔矢…オレ…お風呂に入りたい……」
ヒカルはそう言って、繋いだままの手の方を見た。アキラの言葉を真に受けて、手を外せば、
社が起きてしまうと思っているのだ。ヒカルは社の顔と、手を交互に見ていた。社は、
ヒカルに気がつかれないように慌てて目を閉じた。
(35)
「大丈夫だよ。そっと外せば、起きないよ。」
そう言って、アキラは繋がれている手に触れた。ゆっくり慎重に絡まった指を一本ずつ
引き剥がしていく。そして、全部の指が外れ、二人は引き離された。
アキラは、社の側に屈み込んで、顔を覗いてきた。社は息を殺してジッとしていた。
「よく寝ているよ……進藤、お風呂は沸いているから、早く行っておいで…」
「後で、着替えを持っていくよ」と言うアキラの言葉に頷いて、ヒカルは部屋を出ていった。
障子が閉じられ、ヒカルの軽い足音が遠ざかっていく。アキラは、社の頬をソロリと
撫で上げ、耳元で囁いた。
「寝たふり、ご苦労様。」
社は、思わず飛び起きた。薄闇の中で嫣然と笑うアキラに、背中がぞくりとした。
恐怖だけではない何か別の感覚が、全身を駆け抜けて社はたじろいだ。
―――――えぇ!?なんでや?
確かに外見だけ見れば、アキラはめったにないきれいな顔をしていた。そして、礼儀正しく、
親切だ。十人いれば、十人全員がそう言うだろう。本性を知っている社でさえも、こんな
風にされたら今までのことは全部自分の夢だったのではないかという気がする。
『アカン!流されたら…コイツは悪魔や…』
自分に言い聞かせる。あくまでも自分はヒカルが好きなのだ。それは、間違いない。神に
誓ってもいい。
ヤツは、アメとムチを使い分けているのか?
もしかして…オレ…もう…コイツに落とされかけてる?
怖い考えに、全身に鳥肌がたった。
イヤや―――――――――――――――――――――――――――――― !!
社は、心の中で絶叫した。
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