Shangri-La第2章 34 - 36


(34)
森下の研究会が終わり、棋院前で和谷と別れたヒカルが
ポケットの携帯を取りだすと、諦めつつも期待していた
アキラからのメールがあった。
突然ぱったりと電話が来なくなったり、昨晩電話に出なかった理由を
変に勘ぐってしまったが、忙しくしている自分に気を使ううえに
昨日はたまたま疲れていて目が覚めなかっただけなのだろう。

自分でも何故こんなにアキラのことを気にかけてしまうのか
ヒカルには良く分かっていない。
ただ、自分にしか見せない、子供のような無邪気さや素直さが
心を捕らえて離さず、つい、甘やかしたくなってしまうのだ。
大体、どうしてアキラは自分にそんな姿を見せるのか、
その理由さえ全く見当がつかない。
だけどそれがアキラなりの信頼の証だという事は分かる。
ヒカルも、アキラにそんなふうに頼られて、悪い気はしなかった。

メールには、
 『昨日はごめん。時間が空いたら電話をくれないか』
とあり、ヒカルは迷わずアキラに電話をかけた。
今日のアキラは、いつものとおり1コールで電話を取った。


(35)
ヒカルからの電話は、研究会が早めに終わったとかで
アキラが考えていたより早くにあった。
しかも、今日の夕方のバイトがキャンセルになったから
今から遊びに来たいという。
心の中に溜まっていたいろんなもやもやが、
ヒカルのその一言で、一瞬にしてどこかへ霧散していった。
舞い上がりすぎて、歓迎する言葉がまともに繋がらないのと
荒れた喉で話す事に多少難儀したことで
ヒカルに心配させてしまったようで悪く思ったものの
久しぶりに持てる二人だけの時間が嬉しくて、嬉しすぎて
心がふわふわ済みきった空へと飛んでいってしまいそうだ。

電話を切ったアキラは、家中の窓を開け放して
篭った空気を入れ替えた。
そしてヒカルに対するほんの少しの後ろめたさから、軽く湯を浴びた。


(36)
ヒカルが塔矢邸に着いたのは夕刻で、アキラは満面の笑顔でヒカルを出迎えた。
ヒカルが靴を脱ぐと、アキラは部屋までヒカルの手を引いて
その様子にヒカルは薄く笑い、部屋にしつらえた座椅子に座った。
「進藤、何か飲む?お茶、コーヒー、紅茶…
 あと、お土産でもらった中国茶もあるけど?」
「あ、うーん、…お茶!」
答えながら顔を上げると、アキラの机の上いっぱいに並べられた
茶器の類が目に入った。
アキラはお茶の入った二つのカップを乗せた盆をヒカルの脇に置くと
ヒカルの脚を跨いで膝を折り、向かい合わせにその腿の上に
体重をかけないよう腰を下ろした。
ヒカルがカップを取り、口を付ける仕種を、アキラは
自分もカップを取りながら見つめた。
久しぶりの光景、そして何より久しぶりの近さが嬉しい。
アキラはカップを置くと、ヒカルがカップを置くのを待って
その首に抱きついた。ヒカルの頬に自分の頬を擦り寄せると、
ヒカルの腕がアキラの肩を抱き締め、頬が頬で押し返された。



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