初めての体験 34 - 36
(34)
「な・・・何だよ!これ・・・!」
ネットカフェで、ヒカルが偶然アクセスしたページにヒカルの写真があった。
それも、ただの写真ではない。ヒカルが陵辱されている写真だ。
『アイツだ・・・あの時の男・・・』
おぞましい記憶が蘇る。恐怖と屈辱の時間だった。写真を撮られていたなんて
知らなかった。
そう言えば、この前アキラの部屋で見つけた写真・・・。本棚にきちんと
整列された本の後ろに封筒が隠されていた。手にとって中を開けてみると、
写真が入っていた。それを取り出そうとした時、アキラが慌ててヒカルの手から
それを引ったくった。ちらりとしか見えなかったけど・・・自分に似ていた
ような・・・。
それに最近、緒方や他の棋士達の自分を見る目が・・・変・・・。
「ちくしょー!!」
ヒカルは店を飛び出した。飛び出したところであてはない。あの男に会うのも
二度とごめんだ。ただ、自分の写真を見たくない。
「うえ・・・ひっく・・・」
あの時のことを思い出して、涙が出てきた。
ヒカルは、道の真ん中で蹲って泣いてしまった。
(35)
ヒカルをよけるようにして、人が流れていく。だが、ヒカルは、突然後ろから
肩を叩かれ、ビクッとして振り返った。まさか・・・またあの男が・・・!
「気分悪いの?大丈夫かい?」
よく知っている優しそうな顔があった。
「白川先生・・・」
ヒカルは涙に濡れた瞳で白川を見上げた。手の甲で涙を拭いながら、立ち上がって言った。
「な・・・何でもありません・・・。大丈夫・・・です。」
「何でもないことないだろう。」
白川がハンカチを取り出し、それでヒカルの涙を拭った。そして、餌付いている
ヒカルの背中をさすりながら、
「今から囲碁教室に行くから、一緒に来なさい。」
と言った。
「ここで待っているんだよ。」
白川は、囲碁教室を開いている社会保険センター内の講師の控え室に、ヒカルを
通した。
白川が出ていった後、ヒカルはどう言い訳しようかと考えた。まさか、本当のことは
言えない。男に犯られて、写真をネットで売られたなんて・・・。あれこれ考えたが、
うまい言い訳を思いつかなかった。
(36)
どれくらい時間がたったのか、白川が戻ってきた。
「今日はもう講義がないので、ゆっくりしていいよ。どういうことか話して
くれるね?」
白川は、ヒカルの横に椅子を並べた。
「あ・・・あの・・・それは・・・」
ヒカルは口ごもった。白川は相変わらず優しい笑顔を浮かべて、ヒカルを見つめていた。
白川の顔をまともに見ることが出来ずに、ヒカルは俯いた。
「もしかして・・・これのこと?」
白川がテーブルの上に何かを置いた。それを見て、ヒカルははじかれたように
顔を上げた。
「せ・・・先生・・・それ・・・!」
ヒカルは青ざめた。どうして、先生があの写真を持っているんだろう?
さっぱり訳がわからない。ヒカルは混乱した。
「ああ・・・やっぱりこれ君なんだ。なんか、似てるなとは思っていたんだけど・・・。
まさか、本人だったとはねえ。」
「棋士の間でもちょっと話題になっていたよ。進藤君によく似てるって。」
いつもの白川らしくない神妙な顔つきで言った。
「・・・!!先生!誰にも言わないでください!その写真、違う人だって言って・・・!
お願い・・・」
ヒカルは白川に縋り付いた。目に涙を浮かべて、唇をふるわせていた。
「どうして、こんなことになったのか話してくれるね?」
白川はヒカルの背をさすりながら、問いかけた。ヒカルはつっかえ、つっかえ理由を
話し始めた。男に拉致されたこと・・・。廃ビルで犯されたこと・・・。
知らないうちに写真を撮られていたこと・・・。
「そうか・・・可哀想に・・・」
「・・・?せ・・・先生?」
背中を撫でていた白川の手が、ヒカルの首筋や脇腹まで触れてきた。
|