トーヤアキラの一日 35
(35)
自分の家が見えてきて、これ程落ち着かない気持ちになった事はアキラには無かった。
見慣れた自分の家の門が、今迄とは違って見えるのは何故だろう。
アキラは、玄関の鍵を開けると、戸を開けて先に中に入った。玄関と廊下の電気を点けて、
入り口でボーッと立っているヒカルに声をかける。
「入って、進藤」
「・・・あ、うん。」
ヒカルは小声で返事をしながら玄関に入って、三和土につっ立っていた。
アキラは戸を閉めて鍵を掛けると、サッサと靴を脱ぎ、黙ってヒカルの腕を引っ張って、
上がるように促した。ヒカルは慌てて靴を脱いで、アキラに腕を引かれて歩き出す。
アキラはヒカルの腕を持ったまま、廊下の一番奥にある自分の部屋に向かって歩いていた。
いつもなら一人で通るこの底冷えのする廊下を、今ヒカルと一緒に歩いている事が
不思議だった。廊下から見える中庭の景色も全然違う物に感じられた。毎日見慣れた
景色なのに、初めて見るような気がするのはなぜだろう。
公園から家に着くまでは、碁の話をしながら気を紛らわせていたが、家の中に入った
瞬間から、身体と気持ちは公園の時間に戻っていた。
───進藤を早く抱き締めて、何もかも味わいたい。どんな顔をするのか、どんな声を
出すのか、どんな顔で喘ぐのか・・・。ボクの手でキミをイカせたい。
アキラは部屋の障子を開けると、ヒカルの腕を引いて中に入った。障子を閉めると、
いきなり何も言わずにヒカルを強く抱き締めて、激しく唇を捉える。思い切り舌を
進入させると、唾液を次々に送り込んだ。ヒカルはそれを喉を鳴らして飲み込む。
次にアキラは、唇を重ねたまま、自分のコートとスーツの上着を一緒に脱ぎ捨てて、
ネクタイを荒々しく取り去った。ヒカルも自分のコートとバッグを同時に横に放り投げ、
強く抱き締め合って全身を密着させる。
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