少年王アキラ 35
(35)
いつもとは違った緊張した空気が流れる中、第一レースが始まった。が、突然勢いよく
入り口の扉が開け放たれる。
そこからSPの静止をものともせずに、無遠慮に室内へ一人の男が入って来た。
「へぇ、ここが少年王専用のVIPルームか!」
「お、お前は…ッ!!」
感嘆の声を上げながら興味深げに周囲を見回すその男に、アキラ王は驚愕した。
そこにいたのは、日本棋院遊撃部隊所属・倉田隊員だった。
「任務で近くまで来てたんだけど、アキラ王が来てるって聞いちゃ来ないわけには
いかないだろ?」
飄々と語る倉田を前に、アキラ王の手が拳を握る。
以前アキラ王がレッドに恋焦がれるあまり、某国大統領・シゲミ氏(要英訳)から借り受
けた画像偵察衛星KH-11でレッドを覗き見ていた時、二人仲良くラーメン屋から出て来た
相手がこの倉田だったのだ。その直後のアキラ王の荒れっぷりは、座間が今でも思い出す
だけでウットリと頬を染め、目を閉じるほどのものだった。
そんな訳でアキラ王の倉田に対する心象は非常によろしくない。
だが、アキラ王の突き刺すような視線に気付かないのか、倉田は話を続ける。
「ふーん、アキラ王は競馬にはまってるのか。…まだまだ子供だなぁ。オレは中学で
卒業したぞ?」
アキラ王の座る椅子へと歩み寄り、馴れ馴れしくひょいと手元の競馬新聞を覗き込んだ。
その態度に少年王の白磁の如く滑らかな眉間に皺が刻まれ、鞭を持つ手に力が込もる。
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