誘惑 第三部 35
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「見張っていて。目を離さないで。ずっと側にいて。ボクを束縛していて。」
後ろから抱きつくように手を回されて、耳元で甘い声でねだられて、ヒカルは首筋から耳まで真っ赤
になった。
「なに?照れてるの?」
アキラが可笑しそうな声でいいながら、耳の付け根にチュッと音をたててキスした。
「可愛いね、進藤。」
顔から火が出そうになって、手を振り回してアキラを振り解いた。
「ちっくしょう、やめろよ、カワイイなんて言うの!」
「どうして?」
「男に向かって言う言葉じゃねぇよ!」
「だったら、」
言いながらもう一度ヒカルを引き寄せて、
「ボクに可愛いなんて言わせないようないい男に、早くなってくれよ。」
そうしてもう一度首筋に軽くキスした。
「楽しみに待ってるから。」
「…畜生、オマエなんか……いいから、もう寝ろ!憎まれ口叩いてないで!」
「ハハハ、」
笑いながらアキラはヒカルの肩に寄りかかり、ヒカルに体重を預けて目を閉じた。
身体にかかる重みと、呼吸の様子に、やはり通常でないものを感じて、ヒカルは、アキラをちゃんと
休ませてやらなければ、と思う。
「塔矢、」
名前を呼びかけ、髪を撫でながらヒカルは言う。
「やっぱり、身体、キツイんだろう?ちゃんと休もうよ。ベッドに行こう?な?」
「…うん、」
ゆっくりと大儀そうに目を開けたアキラの顔を覗き込んで微笑みかけ、それから彼の身体を気遣い
ながら立ち上がらせて、支えるようにしてベッドへ連れて行った。
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