金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 35


(35)
 初めてのキスは何の味もしなかった。よく言うようなレモンの味もミントの味もしなかった。
強いて言うなら、水の味がしたような気がする。
 ゆっくりと唇を離して、ヒカルの顔を正面から見つめた。大きな瞳が同じように、アキラを
見つめていた。
「…………ビールの味した?」
「しなかった………」
「じゃあ、何の味がした?」
「何も………」
ヒカルが不思議そうな顔をした。
「オレはしたよ?」
「どんな?」
「甘かった…」
それだけでは足りないと思ったのか、彼は少し考え込むように唇に手を添え、続く言葉を探していた。
「…えっと、アイスクリームみたいな味がした…」



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