パッチワーク 35
(35)
芦原 2013
娘のゆかりとオセロをしていると電話が鳴り妻がでた。
「あら、アキラくん」
妻の声が明るい。
先日退院し箱根の先生宅で療養を続けているアキラからの電話だったらしい。
娘とのオセロは最初は八子おいていたが、五回連続で勝てば一子ずつ減らしてゆく
約束で今日から三子になった。
娘は一つ空いている隅を取ることに集中して全体を見ることができずこちらの大勝だった。
二局目が終わったところで妻が
「アキラ君の彼女じゃないの。今度紹介してね。」
と言って受話器を置いた。
「訊かなかったの」と妻に尋ねると「明日対局があるって言うんだもの」
とソファに座りクッションを抱き潰しながら応えた。
拗ねている。アキラに聞きたいことがあったのを我慢したせいだろう。
ちょっと、かわいい。
「じゃあ、明日対局のあとで訊いてみるよ」
十連勝で五子から三子まで減らしたのに二連敗になりふくれっ面の娘が
また石を並べはじめた。三連敗になったら口を利いてくれなくなりそうなので
「なんで上手くゆかなかったのか「検討」をしようか。」と娘に言った。
自分の娘に「天使ちゃん」なんて呼びかける緒方さんほど親ばかではないつもりだが
オセロのせいで娘が口を利いてくれなくなるのは辛い。
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