落日 35
(35)
偶々留守をしていて今ここにいないのだという事になど、思い当たりもしなかった。
その時、ヒカルの心を占めていたのはただ一つ「いない」と言う事のみで、その理由まで、問う余裕
は彼には無かった。
いない。どこにもいない。誰の気配もしない。
ぞくりと体が震えた。
本当に、彼はいたのだろうか。
彼と過ごした日々は、あれは夢ではなかったか。
彼がいて、あの人がいて、自分は笑っていて、つまらない喧嘩もしたけれど、大変だったけど、死に
そうな思いもしたけれど、でも、楽しかった。
あれは本当にあった事だろうか。
全て自分の見ていた夢ではなかったか。
だって、誰もいない。
佐為もいない。
賀茂もいない。
ここには誰もいない。
そうしたら、俺だって。
本当にここにいるのか?
本当に俺は、生きて、ここにいるのか?
ここにいる俺も幻じゃないのか?
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