Linkage 35 - 36
(35)
「……やはりそうか。最初から顔にそう書いてあったからな。オレに相談したい
ことがあると……」
緒方の口調は攻めるようなものではなく、むしろ萎縮するアキラの気持ちを
解きほぐすような穏やかさがあった。
アキラもそれを感じ取りホッとしたのか、浅く腰掛けていたソファに改めて深く
身を沈める。
「ごめんなさい、緒方さん……」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、上目遣いに謝罪の言葉を述べるアキラに、緒方は
「構わないさ」と気さくに言うと、アキラの肩を軽く叩いた。
「飲み物を用意するが、アキラ君は何がいいかな?コーヒーか紅茶か……あと
ペリエくらいしかないが」
「……あの…ペリエってなんですか?初めて聞く名前だなぁ……」
いかにも小学生らしいあどけない表情でそう尋ねるアキラを楽しそうに
見つめながら、緒方は答える。
「早い話が炭酸入りのミネラルウォーターだな。喉越しがいいから、オレは
結構好きでね。飲んでみるかい?」
アキラは円らな黒目がちの瞳を輝かせ、嬉しそうに大きく頷いた。
「ハハハ。好奇心旺盛なのはいいことだな、アキラ君」
そう言って愉快そうに笑いながら、緒方は台所へ消えた。
ひとりになったアキラは、緒方が自分の突然の訪問を嫌な顔ひとつせず快く
迎えてくれたことに安堵の溜息をつくと、鞄を開けて小さな包みを取り出した。
膝の上に置き、かけてあるリボンの歪みを丁寧に直すと、再びそっと鞄にしまう。
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程無くして、ステンレス製のトレイを片手に、緒方は戻ってきた。
アキラの横に腰掛けると、スライスしたレモンと氷の入った2つのグラスをテーブルに
並べ、グリーンのボトルに入った透明な液体を注ぐ。
シュワシュワと勢いよく泡が弾ける様子を、アキラは辺りに漂う爽やかなレモンの香りに
包まれながらうっとり眺めていた。
緒方はクリームチーズを塗ったクラッカーの皿をテーブルの中央に置くと、2つのグラスを
手に取り、片方をアキラに手渡す。
「それでは、可愛いアキラ君の来訪とオレの誕生日を祝してカンパイ!」
アキラも緒方に合わせて楽しそうに「カンパイ!」と声を上げ、軽やかにグラスをぶつけた。
床暖房が程良く効いている室内は暖かく、キリッと冷えたペリエの泡が喉をくすぐる。
レモンの仄かな酸味と香りも、例えようもなく心地良い。
アキラは初めて飲むこの飲み物が一気に好きになってしまった。
一息にグラスを空けるアキラを笑いを堪えながら見つめていた緒方だったが、アキラが
「ふうっ」と満足そうにグラスをテーブルに置くと、すかさずペリエを注いでやった。
アキラは緒方の気遣いに少し照れ臭そうな表情を浮かべたが、ふと思い出して鞄を開ける。
「緒方さん、お誕生日おめでとうございますっ!!これプレゼントです。気に入ってもらえると
嬉しいなぁ……」
そう言って鞄の中の小さな包みを両手で緒方に手渡した。
満面の笑みを浮かべながらプレゼントを手渡すアキラに、今度は緒方が照れ臭そうな表情を
浮かべる番だった。
「……本当にいいのか?」
そう言いながら受け取った包みをまじまじと見つめる緒方が、一瞬硬直する。
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