敗着─交錯─ 35 - 36


(35)
「アキラ…、」
驚いた表情で緒方が立ち上がった。
「緒方さん……」
怒りで声が震え、言いたいことの半分も言えなかった。
「あなたは、まだ進藤を――」
緒方に詰め寄ると、飛びかかりそうな自分を抑え問いただした。
「……何しに来た…。お前とは切れたはずだぞ」
「そういう問題じゃないっ!!」
「…んだと…、このガキ…」
目の据わった緒方と対峙した。
「帰れ…ここはオレの部屋だ」
「緒方さん…あなたという人は…っ…」
進藤のことに関しては、例え相手がこの人であろうとも一歩も引くつもりはなかった。
その時――、
「カチリ」と音がして部屋の扉が開いた。
「塔矢…」
「進藤!」
懐かしい顔だった。避けられても、なお追いつづけた。
「帰ろう!進藤!」
駈け寄り思わず抱きついた。
そして説明するつもりだった。
もうここへは来なくて良いと――
後は自分でけりをつけるつもりでいた。

「進藤、ゴメン、ボク…」
再会できた嬉しさと、謝ろうとする気持ちと抑えきれない感情がない交ぜになり心を乱した。
「進藤…」
ヒカルを抱きしめた腕に力を込めその匂いを一杯に吸い込む。
(もう離れたくない――)
避けられつづけ、会えない時間を存分に味わった自分はもう進藤なしでは生きてはいけなかった。そう感じていた。
(このまま二人で帰ろう――そして、最初からやり直すんだ)
今やっと捕まえたヒカルをしっかりと抱きしめた。
「……?」
待っているヒカルからの抱擁がなかった。
「…進藤?」
訝しみ、顔を離すとヒカルを見つめた。
「塔矢、オレ――」
ヒカルは思いつめた顔をしていた。


(36)
「塔矢、オレ。…ごめん」
「謝るのはボクの方だっ。…キミは悪くない…。」
自分よりも少し背が低いヒカルの頭をかき抱く。
「キミは悪くない…」
どう言えばいいか分からなかった。彼がなぜ謝るのかが理解できなかった。
(進藤は、何を詫びている…?)
緒方さんと寝たことか――?
そんなことはどうでも良かった。むしろ非は自分にある。二人でいれるなら、あとは何が起こっても平気だった。
「…良かったな、アキラ。さあ二人とも出ていってくれ」
「言われなくても出てきます!!」
ヒカルを抱きしめた腕に力を込め、追い払うように手を振った緒方を怒鳴った。
「……あの、塔矢…、」
背中に回した自分の手を、おずおずと遠慮がちに外しながらヒカルが口を開いた。
「どうした?」
進藤の言うことなら、何でも聞くつもりだった。

何かを察した緒方が顔を背けた。
「オレ、行かない…」
ヒカルが呟いた。
「……」
ヒカルが言った言葉の意味を理解できなかった。
「――ゴメン、塔矢、オレ、お前とは行けない……!」



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