平安幻想異聞録-異聞- 36


(36)
秘め事を終えたあとの部屋は、一時の熱気が去り、不思議な静けさに
つつまれていた。
ヒカルは佐為の胸に顔をうずめてまどろんでいる。
佐為は、そのヒカルの体のあちこちにまだ残る、数日前の暴行のあとを
指でゆっくりたどっていた。
ヒカルの体が、情事の名残だけではない熱さをもっていた。
熱がぶりかえしたのかもしれない。
まだ、傷も癒えぬうちに無理をさせてしまったのではないか?
そんな心配をしながら、指をヒカルの下半身にもすべらせる。
股の内側のひときわ長い切り傷が熱を持ってミミズ腫れのようになっていた。
太ももを手が這う感覚にヒカルが小さくうめいて目を開けた。
「すいません。イヤでしたか?」
「ん〜〜、平気」
そう言って、ヒカルはギュッと佐為に抱きつく。
その声は、情事のなごりで少しかすれていた。
ヒカルが、自分の胸に顔をうずめたまま、ぶつぶつと何かつぶやくのを
耳にして、佐為は何かと問いかけた。
「んー、いい匂いだなぁと思って」
「匂い?」
「うん、佐為って、こういう事した後なのに、あんま汗の匂いってしないのなぁ。
 いい匂いがする。何?この匂い」
「あぁ、着物に香を焚きしめてありましたから、その移り香でしょう。
 菊の香りですよ」
「菊?」
「えぇ、もう菊の花が咲き始める季節ですからね」
「へぇ〜〜、菊かぁ」
「そうです。季節ごとに焚きしめる香の種類を変えるのですよ」
「ふうん、でも、オレ、この匂い好き。おまえ、ずっとこの香にしろよ」
「そういうわけには…」
「だめ。オレ、これがいい」
そういうなり、腕の中、寝息を立て始めてしまったヒカルに、
佐為は苦笑するしかなかった。


           ――藤原佐為が、翌年の花見の会にも、季節外れな菊の香をまとって現れ、
           参列する貴族たちにけげんな顔をされるのは、また少し別の話になる。



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