金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 36


(36)
―――――キミどこで見てたの?
アキラは眩暈を起こしそうな気分だった。もしかしたら、ヒカルは本当にあの金魚かもしれない。
そんなあるはずもないことを思いついて、ますます頭がクラクラして倒れてしまいそうだ。

 ペットショップをガラス越しに覗きながら、母と二人で毎日食べたアイスクリームの味を
思い出した。アキラはいつもバニラを食べた。母はその日の気分で、いろいろためしてみるのが
楽しかったらしい。買い物帰りの小さな幸せ。
 それから暫くして、その相手は小さな赤い花に変わった。金魚には小さな顆粒状の餌を与え、
自分はその前に座って、甘い甘い氷菓子を口に運んだ。ときどきは、父や母もそれに加わった。

 ヒカルがアキラの鼻先に指を突きつけた。大きな瞳がまっすぐにアキラの目を射る。
「…………塔矢、オマエどっかで買い食い……………」
そう言いかけたが、すぐに眉間に皺を寄せて、「………んなわけないか…」と手を下ろした。
 「ナシ!ナシ!今のナシ!忘れて…!」
早口で一気に捲し立てる。ハアハアと、激しく上下していた胸の呼吸が落ち着いた頃、
ヒカルは小さくポツリと呟いた。
「オレ…ヘンかな…?」
俯いて頬を染める様子が可愛くて愛しくて………
「じゃあ、もう一度確かめてみる?」
アキラは再びヒカルの唇に触れた。今度は先程よりずっと深く長くヒカルの水のような
唇の感触を味わった。



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