闇の傀儡師 36 - 38
(36)
例の写真が完全に来なくなった事をヒカルから聞き、アキラは「そう。」と
安心した表情をヒカルに見せた。
そのアキラが手合いの自分の席に着こうとしたところ、その座ぶとんの上に自分宛の
手紙が置いてあるのに気がついた。
名前と住所があり、切手も貼ってあるのに消印のない、例の手紙だった。
アキラはそれをヒカルに気付かれないよう、そっとズボンのポケットに入れた。
手合いの後で封を開いたところ、中から黒髪を切りそろえた人形が裸でべッドに
縛り付けられ、何か木目のもう一体の人形と腰の部分を重ね合わせている写真が何枚か入って居た。
ニ体の人形は様々な形や角度で腰を合わせられていた。
裏にはやはり“あなたのファンより”と記されている。
夜、自分の部屋で布団に入る前に、軽く息をつくアキラ。
そして意を決したように布団の中に横になり、眠りにつく。
一度薄れた意識がはっきりするにつれて、アキラは自分が全裸にされてベッドの上に
足を大きく開かれて縛り付けられている事に気付いた。
「気分はどうだね、アキラくん。」
そばで男の声がする。ぼんやりと輪郭は感じるが、それ以上の詳しい人相はわからなかった。
ただ自分と比べて、というか、自分の体が男にとって人形並みに小さいという事は分かった。
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「…なるほど、進藤は、こうい目に遭わされていた訳か。」
「ふふ、まるで自ら望んでここに来たような言い種だな。」
「…その通りだと言ったら?」
「随分気の強い坊やだ。だが、その態度がどれだけ続くかな。」
男の姿が遠のき、入れ代わりにアキラよりひと回り大きな木の人形が近付いて来た。
その股間には太く大きな男根がそそり立っている。
人形の口元がにやりと歪んだように見えて、男の声がした。
「いずれはヒカルくんもこうして味わうつもりだった。…あと少しのところで
邪魔をされたが、まあいい。実は君のことがとても気に入ってね。
君の体でヒカルくんの分まで楽しませてもらうことにしたよ。写真の通りにね。」
翌日、
いつものように碁会所で指導後をするアキラ。
そこへヒカルが顔を出し、アキラの仕事が終わるのを待つ。後でヒカルの家にアキラが行き、
碁を打つ約束になっている。もちろん目的はそれだけではない。
「お待たせ、進藤。何か買っていった方がいいのかな。」
「ううん、何でも揃ってるから大丈夫。母さんがいないから寿司をとるよう言われているし。それより…さ、」
ヒカルは一刻も早くアキラと部屋で二人きりになりたがっているのは態度からあまりにも分かりやすかった。
アキラは優しく微笑んでヒカルと並んで歩く。
「あれ、…塔矢、どっか怪我してる?」
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「ううん、どうして?」
「少し歩き方が変みたいな…足、引きずってない?」
「べつに。何だったら、後で隅々まで見てみればいい。」
そう言われてヒカルは真っ赤になった。
「べ、別に、気のせいならいいんだよ。」
「さすがに長時間無理な体位ばかりとらされたからな…」とボソリとアキラが呟く。
だがそれはヒカルの耳には届かなかった。
後日、都内のあるマンションの一室で、その部屋に住む男が意識不明の状態で発見された。
ベッドに横になったまま数日間そのままだったらしく、それ以前に何らかの体力的な理由で
発見当時の衰弱が激しかった。
男は人形製作のマニアだったらしく、部屋の中には様々な人形が溢れ、その内のひと組が
救急隊員の印象に強く残されていた。
人形用に作られたベッドの上で、いわゆる“交わり”のポーズで組まれていて、
知らせで駆け付けた家族が「恥をかいた」とすぐに周囲の人形とともにそのひと組を
廃棄したということだった。
ゴミの山の中の一角でその木の人形は今でも人に届かぬ声で叫び続ける。
「た、助けてくれ、私の魂はまだ元に戻っていないんだ。戻れないんだ。シンクロしすぎて…、
あいつのせいだ。あいつが、私を誘って私の魂をこの人形の中に縫い付けやがったんだ…!!」
〈了〉
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