クローバー公園(仮) 36 - 40
(36)
「あ…はい、ちゃんと、聞いています……」
ヒカルは、アキラが話し始めたと見るや、形をなしたアキラの胸の蕾を舌で弄んだ。
「ん…!それで、その後おとうさんは、どうしたんですか……ぁ」
安心したように母は話を続けたので、アキラは慌ててまた受話器を塞いだ。
どうやら運の悪いことに、話す事が有り余っているようだ。
ヒカルが与える甘い刺激に、思わず瞑ってしまった目を開くことが出来ない。
優しくそっと肌を撫でるヒカルの手や舌の感触が全身に響き、
逆に、母の声は遥か遠くで聞こえている。
なぞっていった道筋に鳥肌が立っているのが、これから与えられるであろう
刺激への期待に首をもたげ、打ち震える自分が居るのがはっきり分かる。
母に不信を抱かせぬよう、辛うじて残った一抹の理性がたまに相づちを打つ。
――話が止む気配はない。
ヒカルはアキラの先端をねっとりと舌で愛撫しながら、入り口を指でまさぐる。
直接的な刺激に、思わず声が漏れてしまったが、気づかれずに済んだようだった。
ヒカルの口の中は温かくて、柔らかくて、気持ちが良くて、
思わずアキラは、空いた手でヒカルの頭を押さえながら、腰を揺らして
相づちを打つことも半ば忘れ始めていた。
「――アキラさん?アキラさん?」
アキラはやっと我に返り、返事をしたが、もう話なんて聞いていられそうにない。
一旦落ち着きを取り戻したい、と思った時、ヒカルはアキラから離れた。
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立ち上がったヒカルは、もう一度アキラを、腰の辺りからしっかり抱き締めた。
全身で感じるヒカルの温もりが、何より気持ちいい。
また何気なく会話を始めると、両脚の間にあったヒカルの膝が
アキラの片膝を押し上げ、結局ヒカルの腕に掬われた。
ヒカルが何をするつもりなのか、アキラにもはっきりと分かる。
アキラは受話器を押さえ、首を振りながら視線で必死に抗議した。
ヒカルは、そんなアキラに不自然なほどに優しく笑いかけると
アキラを壁に押し付け、唇を塞いで一気に押し入った。
過ぎるほどに丁寧なアキラの母親のおしゃべりが、ヒカルにも聞こえた。
「――それじゃぁアキラさん、おとうさんに替わりますね?」
それまでやわやわとアキラを揺さぶってきたヒカルの動きが、止まった。
暫くすると行洋が電話口に出たが、ヒカルは身じろぎもしなかった。
簡単な挨拶だけで電話は切れた。
アキラが受話器を置くより早くヒカルがアキラを突き上げ、
受話器はアキラの手からこぼれ落ちた。
定位置に受話器の帰らない電話機が、不快な音で注意を引きつけようとしたが
それも聞こえない程に、二人は激しく貪り合い、お互いの与える甘美な恍惚に溺れた。
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アキラの声がする。自分を呼んでいる。ヒカルは重たい瞼を必死でこじ開けた。
ネクタイ姿のアキラが視界に入った。今日は仕事だろうか……
「進藤、今日、手合あるんだろ?」
うん―――、と唸りながらヒカルは目をこすった。
「進藤、調子はどうだ?」
アキラがヒカルの隣に屈んだ。声が少し枯れている気がする。
「オマエこそ、どうなんだよ……」
「うん、気分いいよ。昨日ですっきりしたからね」
すっきり……そう、すっきりねぇ、と苦笑いしながら身体を起こすと、
身体のあちこちに鈍い痛みが走った。
「な、塔矢、でも、たまには玄関も良かっただろ?」
「良くないよ!もう二度とごめんだね」
アキラは間髪入れずに返す。
「そーいやオマエ、キスもちょっと上手くなったんじゃねェ?
いっつも噛みつくみたいにしてくるんだもんなぁ〜。
なんかちょっと色気も出てきたしな?なんかあった?」
「噛みついてくるはキミの方じゃないか!それより、震えが止まらないくらい
欲情するなんて、頼むから今回限りにしてくれよ。心配して損したよ」
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「それは見境なく色気振りまいてたオメェが悪ぃんだよ!
でもさぁ、結構興奮してたじゃん…すっげー腰振って、
声だって、いつもよりずっと大きくて、いっぱい出してさぁ…。
あれってやっぱ場所かな?それとも電話?親に聞かれちゃうと思って興奮した?」
あーまずい。思い出したら、なんかもっぺんしたくなってきた。
今からしようって言ったら…ダメかな?
ヒカルはにやけて意味ありげにこちらを見ながら返事を待っている。
こういう時だけは、なんて小憎らしいんだろう。
「だったら何で、お父さんが出た時は大人しかったんだ?
息も潜めて固まってたじゃないか。
なんだかんだ言いながらキミも結構臆病だったよね」
痛いところを突かれて、ヒカルは言葉に詰まった。
「進藤、ほら、早く仕度しないと遅れるよ」
アキラはヒカルの考えを見透かしたかのように冷たく言い切り
朝ご飯、用意するから、と言い残して出ていった。
朝食の間ずっと、ヒカルは昨日のアキラの七変化が頭から離れなかった。
もともと分からないと思ってはいたけど、昨日でますます分からなくなった。
でも、今日のアキラは黙々と食事をしていて、いつものアキラっぽい。
なんかいろいろ引き出しがあるのも、ちょい面倒だなぁ、とヒカルは思った。
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食事が済むと、アキラはヒカルに右手を出すように言った。
言われるまま手を差し出すと、ヒカルの中指に絆創膏が巻かれた。
まだ青々と歯形が残っている。
「そんなの、いいのに」
「……痛む?石、打っても大丈夫かな」
「今は平気。石は、打って痛かったら考えるよ」
「――――済まなかった」
「いいけど、謝るなら、もっと早く謝れよ」
アキラは俯いて無言を返した。
「んじゃぁ、今からもっかい玄関でさせてくれたら許すよ」
ヒカルは冗談のつもりだったのだが、アキラは真剣に何か考えているようだった。
「―――塔矢、冗談だよ!また今度な。…ところで今日は?仕事?」
アキラは顔を上げ、あからさまにむっとしたような表情を返した。
「変な冗談はよしてくれないか。もうイヤだってさっき言ったろう。
今日はボクも手合だよ。さあ、そろそろ行こうか」
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