Shangri-La第2章 36 - 40


(36)
ヒカルが塔矢邸に着いたのは夕刻で、アキラは満面の笑顔でヒカルを出迎えた。
ヒカルが靴を脱ぐと、アキラは部屋までヒカルの手を引いて
その様子にヒカルは薄く笑い、部屋にしつらえた座椅子に座った。
「進藤、何か飲む?お茶、コーヒー、紅茶…
 あと、お土産でもらった中国茶もあるけど?」
「あ、うーん、…お茶!」
答えながら顔を上げると、アキラの机の上いっぱいに並べられた
茶器の類が目に入った。
アキラはお茶の入った二つのカップを乗せた盆をヒカルの脇に置くと
ヒカルの脚を跨いで膝を折り、向かい合わせにその腿の上に
体重をかけないよう腰を下ろした。
ヒカルがカップを取り、口を付ける仕種を、アキラは
自分もカップを取りながら見つめた。
久しぶりの光景、そして何より久しぶりの近さが嬉しい。
アキラはカップを置くと、ヒカルがカップを置くのを待って
その首に抱きついた。ヒカルの頬に自分の頬を擦り寄せると、
ヒカルの腕がアキラの肩を抱き締め、頬が頬で押し返された。


(37)
「ん………」
まだ髭の生えていないヒカルの頬は柔らかく
弾力があり滑らかで、その感触がアキラを幸せにした。
暫く二人で頬擦りしあってから、アキラはヒカルの頬に口付けた。
頬骨から目元へ、こめかみからフェイスラインをなぞって顎先へ、
さらに顔の反対側へ――ヒカルの華奢な骨格を唇で確かめる。
鼻先へ、ちゅっと音を立てた軽いキスの後、
アキラの動きがふっと止まった。
目を閉じて身を任せていたヒカルが、その静寂に耐えられず
そっと瞼を少しだけあけると、アキラの顔は
鼻先でキスしたままの場所に留まったままだった。
ヒカルはアキラの頭に手を添え、軽くこちらに押しやると
その唇に、ぱくりと食いついた。
アキラの唇は、柔らかくヒカルを迎えた。
少し離れてはまた、どちらからともなく求めて
お互いに何度も小鳥のように唇をついばみあった。
「塔矢……、する?」
何度目かに唇が離れた時、ヒカルが囁いた。
どれだけしても深くならないキスも、
抱きつきはしてもそれ以上求めない手も、
アキラが今、これ以上を望まないと言っているのだとは思うが―――


(38)
「ううん……、今は、このまま…」
アキラはそう言うと、ヒカルの首筋に顔を埋めた。
ここは、確かにヒカルの匂いがいっぱいある。
確かめたくて、ゆるゆると首を振って擦りついた。
背中からヒカルの腕がアキラを包み、その手が髪を撫でる。
アキラは目を閉じて、全てをヒカルに預けた。

「塔矢さぁ…、やっぱ風邪じゃねぇ?」
「え?」
「声つらそう。大丈夫かよ?昨日は声、普通だったのにな?」
昨日は二人揃って芹澤の研究会に出ていたが
棋院内で不用意に会話をしないようにしているため
昨日二人が交した会話は挨拶程度だった。
「大丈夫……風邪だったらキスなんかしないよ。
 うつっちゃったら、キミが困るだろ?」
―――確かに。今ヒカルのスケジュールは目一杯埋められている。
風邪でダウンする暇などある筈もないのだ。
でも、それなら何故ここまで声が違うのか…?
ヒカルは思うまま、その疑問を口にした。


(39)
「うーん、昨日、羽目外しすぎちゃったかな…?」
アキラは暫く昨晩の事を思い巡らせ、とりあえず無難な答えを返した。
こんなことなら、昨日はさっさと帰ってくれば良かった。
「へぇ…、何したの?塔矢が羽目外すって、想像つかねぇー!」
「――悪かったね。一人で居ると、いろいろあるんだ」
アキラは少しだけ身体を起こして、ヒカルを睨んだ。
いくら眼光鋭く睨みつけても、口を尖らせていては
単に拗ねているだけとしか思えない。
ヒカルはニヤニヤと笑いを浮かべ、両手でアキラの頬を挟んだ。
「ふぅ〜ん、淋しかったんだ?構って欲しかった?」
別に、とぶっきらぼうに答えてアキラは視線を逸らした。
アキラの気持ちは推し計るに容易い。
ヒカルは口元に含み笑いを浮かべながら
逃げようとするアキラをヒカルががっちり抱き締めた。
「ちょっ…進藤?何?」
「アキラちゃん、淋ちかったんだー。そっかー。
 だから抱っこちて欲ちかったんだー?」
ヒカルはぽんぽんとアキラの頭を撫でてやりながら
わざと子供をあやすような口調で、その様子を窺った。
アキラはヒカルを詰りながら、身を捩って逃げようとしている。


(40)
ヒカルは更に、アキラに頬擦りを始めた。
「アキラちゃんは、ほっぺたも大ちゅきだもんなー?
 ほっぺむにむに出来て、嬉ちいなー。なぁ?」
「しっ…進藤っ!いい加減に…」
ふっ、とヒカルがアキラを放したので
急に解放されたアキラは、続ける言葉に詰まった。
「塔矢、降りて」
ヒカルの意図が分からず、アキラはただヒカルを見ていた。
「降りろよ、早く」
あ、ごめん、と一言謝って、アキラはヒカルの上から退いた。
ヒカルは座椅子に座り直して深く息を吐き、両膝を立てた。
アキラを見ると、不安に瞳を揺らし、ヒカルとも微妙に距離を置いて
息を飲み、じっとヒカルを見ている。
「塔矢、こっち来て」
ヒカルはその神妙な様子に吹きだしそうになるのを
ぐっと噛みしめてから、出来るだけ優しく声をかけた。
「なに…?」
「こっち、ここ」
ヒカルが自分の両脚の間にあいた空間を示すと、
アキラは安堵した様子でそこに収まると、ヒカルに寄りかかった。
ヒカルの手がそっとアキラの髪を弄り、その動きに合わせて
ふわり、ふわりと微かにヒカルの香りが漂う。
ヒカルにされるまま、アキラはうっとりとしていた。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル