白と黒の宴2 36 - 40
(36)
「すぐ溶ける」
緒方は二つ目の氷を手にしたようだった。
「お願いです!、やめ…!!」
緒方が指を離すと直ぐに一個目の氷は出口近くまで押し戻って来た。
それごと押し込むようにして、ニ個目も同様に緒方は中に詰めた。
そうして冷えきったアキラの内部で指を動かし始める。
一度頭を擡げかけ、氷の洗礼によって鳴りを潜めたアキラ自身をすっぽり口に含んで吸う。
「んん…!、くうっ…ん…」
緒方の指が動く度に体内で冷たい物体も動き、ぶつかり合い腸壁を擦るという奇妙な感覚にアキラは身悶えた。
アルコールで高められた熱をそうして奪われ、そうしながら刺激によって新たに熱が与えられる。
「ああ…」
緒方の指の動が速められて激しくペニスを吸い立てられ、アキラは喘いだ。
「うあ、く…ああっ!!」
前立腺を圧迫されて生理現象的に強引に高められ、アキラは緒方の口の中に放った。
それでも容赦ない激しい愛撫が続けられた。
「ん…ん…、くっ…」
体内の氷は溶けて腸壁に吸収されていった。
執拗に指と口でアキラを責め立てる緒方の動きで小さくベッドが軋む音だけが響いていた。
「んんーーーーっ……」
全身に汗を浮き上がらせてアキラは再度到達した。
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もしかしたら、緒方は自分自身で抱くつもりがないのかもしれない、とアキラは思った。
そうだとしたらそれ以上に冷たい仕打ちはない。
「指…じゃ、いや…」
死ぬ程恥ずかしい言葉を口にし、アキラは懇願した。するとようやく指が引き抜かれて緒方が
体勢を変え、腰を重ねて来る様子があった。温かい物がそこに押し当てられた。
一瞬ホッとしかけたアキラだったが、その時何か違和感を感じた。
「緒方…さん…?」
緒方はコンドームを装着していた。
「…!!、や…だ…、なん…で…」
「…どこの誰と寝ているか分からん相手だからな…。」
その言葉に、アキラの心が凍り付いた。
呆然としているアキラの肉体を裂くように緒方は自分自身を一気に突き入れた。
ベッドが軋む音が続いていた。
ほとんど物として扱われるようにアキラは抱かれていた。
自分の中で緒方が激しく動いていたが、どこか機械的で、愛情の欠片もないsexだった。
途中アキラは何度も哀願した。
「…やだ、こん…な、…お願い、緒方さん…、直接…来て…」
緒方の熱を受け止めたかった。そうでなければ、もう二度とここには来れない。
緒方に抱かれたいと思う事は出来ない。だが緒方が応じる気配はなかった。
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「お…が…」
後は言葉にならなかった。しゃくりあげ、肩を震わせてアキラは声をあげて泣いた。
「あ…うっ、ううっ…」
ただ悲しかった。緒方にそういう扱いを受けても仕方のない自分が惨めだった。
緒方が強く突き上げる毎に雫がいく粒もアキラの頬を伝い、シーツを濡らした。
すると激しかった動きが、少しずつゆっくりとなり、止まった。
静かになった室内で、何かがアキラの耳に届いた。それはほんの僅かだったが、緒方の呼気に
ため息のような、唇を噛み締めて声を抑えるような気配を感じた。アキラはハッとなった。
…緒方さんも、泣いている…?
緒方の顔に触れて確かめる事は出来なかったが、何となくアキラはそう感じた。
何故目隠しをされたのか、アキラは理解した。
脆い程にバランスをなくし冷静な自分を保てず苦しんでいる緒方がそこにいた。
こういう形で何もかも終わらせようとしている。
二度とこの場所に来る気を起こさぬようあえて手酷い仕打ちや言葉を与えようとした。
酒の力を借りて、それらの行為をしようとした。
不器用な人なのだと、つくづくアキラは思った。そして自分達は似ているのだと…。
「…緒方…さん」
ぴくりと、緒方が反応する。
痛みの限界を通り越し、殆ど感覚がなくなったはずの体内で緒方の心音を感じた。
「…それでもあなたを憎む事は…ボクには出来ません…」
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緒方は何も答えようとしなかった。
体力的な限界と貧血からアキラの意識は途絶えかかっていた。
その意識を現実に引き戻したのは、一気に体内から緒方自身が引き抜かれる痛みと、
再び押し入られて来た苦しみだった。
だが、今度はその部分に二人を隔てていたものは取り去られていた。
「…ああ、あ、あ…」
緒方の燃えるように熱い肉体の先端に直接触れアキラは歓喜に全身を震わせた。
緒方の唇がアキラの体表を動き、乳首を優しく愛撫した。
その間も緒方は腰を進め、アキラを満たしていく。
「はあっ、…あ…んんっ!!」
同じ行為でも、緒方の脈動を直接受けるだけで、受け取る感覚がまるで違った。
「あ…あ、イイ…、おが…たさ…、もっと…もっと…」
かつてない程に緒方の体の下でアキラは乱れた。緒方の手がアキラ自身を包んで刺激し始めると
狂ったように首を振り、声をあげた。
緒方の吐息も次第に荒くなり、より一層アキラの中での動きが激しくなる。
「く…はあっ、ああ…、い、イク、い… 」
アキラも更に激しく喘ぎ、身を捩り、腰を自ら浮かせて突き上げた。視覚を奪われている事がアキラを
大胆にしていた。そのアキラの反応に呼応するように緒方もいっそう昂り、呼気を荒げた。
「ああっ、く、ううーーーん……!!!」
頭の中が真っ白になるような、体から魂が抜けるような衝撃がアキラを包んだ。
身を溶かすような緒方が放つ熱いものを受け止めた時、一筋の涙が頬を伝わり落ちた。
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「…やはりオレは、逃れる事ができないのか…。」
高波が静かに去って行く中で観念したような緒方の言葉を聞いた気がした。
拘束とアイマスクが解かれた後、ぼんやりとした表情でアキラは緒方を見つめその顔を両手で包んだ。
緒方に優しく、そして強く抱き締められ、唇を重ねられた。覚えているのはそこまでだった。
意識を手放し、空間に漂うような感覚の中で、ただアキラは幸福だった。
心ではヒカルを追いながら、体は緒方との繋がりを求め、その一方で社の情熱を拒みきれない自分がいる。
自分の魂が何処に行き着こうとしているのか、今のアキラにはわからなかった。
おそらく緒方も、社も同じなのだろう。体を重ね合わしている瞬間だけが全てだった。
答えは、まだ出せない。自分が誰を選ぼうとしているのか。
緒方の部屋で気を失った後、次の日は丸一日起きられなかった。激しい脱水症状もあった。
緒方がまだ本因坊リーグ戦のまっただ中にいて、次の対戦相手が桑原の次に囲碁界では
強豪の座間である事をアキラは知っていた。
そのためにも緒方は、自分との関係に無理にでも決着をつけようとしたのだろう。
全てを吹っ切って対局に臨むために。
「…体調はどうだ。」
ベッドの上のアキラに、緒方は水を持って来てくれた。
肩を抱くようにしてアキラの上半身を起こさせ、コップをアキラの口にあてがって飲ませてくれた。
「…すまなかった。」
緒方の言葉にアキラは黙って首を横に振ると、緒方の胸にもたれ掛かった。
残酷な事をしているのは自分の方かもしれないと思いつつ。
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