交際 36 - 40
(36)
「社……?」
ヒカルが、クスクスと笑う社の顔を不思議そうに覗き込んできた。涙に濡れた子犬みたいな
瞳。膝の上に抱えていても、まだヒカルの方が目線が低い。顔も身体もすべてが、小作りで
愛らしかった。その小さな唇から、震えるような息が吐かれている。ヒカルは社に
か細い声で訴えた。
「ね…抜いてよ…お願いだから…」
ヒカルの小さな身体を自分の方へ引き寄せ、耳元で囁いた。
「…………堪忍な。痛かったら、殴っても噛みついてもかまへんから……」
今さら止めることなんて出来ない。言うが早いか、社は、ヒカルの身体を思い切り揺さぶった。
「や!や、あ、あ、やぁ――――――――!」
腕の中でヒカルは、掠れた叫び声を上げた。社から離れようと、必死で身体を突っぱねた。
「やだ、いや、たすけて…とうや…とうや…」
ヒカルは、泣きながらアキラに助けを求めている。膝の裏から片方の腕を通し、残った
腕で、ヒカルの腰を支えた。そのまま身体を持ち上げ、落とす。
「や―――――――――――――――」
ヒカルが社の肩に爪を立て、頭を激しく振った。涙が、二人の首筋や胸を濡らした。
「やぁ、やだ……と…やぁ…たすけてぇ…」
泣き叫ぶヒカルを無視して、身体を揺する。
『スマン…進藤…』
社は自分の快感を追うのが、精一杯だった。理性などとっくの昔に、雲の彼方に吹き飛んでいる。
苦しげな息遣い、小刻みに震える身体、頬をつたう涙さえも、社に快い刺激を与えた。
ヒカルが喉を震わせて叫ぶ度に、社を強く締め付ける。
「ハァ、アァ、やだよぉ…」
社はヒカルの華奢な身体を、骨が折れるかと思うほどの力で抱きしめた。
「ああ!あぁ…」
自分とヒカルのうめき声が重なった。彼の肩に額を押しつけたまま、社は、暫く動くことが
出来なかった。
(37)
身体の奥底に熱いモノが叩き付けられた。社はふうふうと荒い息を吐きながら、まだ、
ヒカルを強く抱きしめたまま離してはくれなかった。
「…も…いいだろ……離してよ…………」
グスグスと鼻をすすりあげた。痛くて痛くて仕方がない。ヒカルはもう限界だった。
そっと身体を離そうとした。が、自分を抱きしめる社の腕にぐっと力がこもった。
「…!や…社?」
「………堪忍…まだや…」
社がヒカルの中でまた蠢き始めた。
ヒカルは怖くて堪らなかった。このまま続けられたら、自分は本当に死んでしまう。
体中が震えた。
「ゴ…ゴメン…社…ごめんなさい…謝るから…お願い…」
泣きながら、懇願した。社は、答えてくれない。
「ごめ…ん…なさい…ごめん…おねが…ゆるして…ごめんなさい…」
社に揺さぶられながら、ヒカルは許しを請い続けた。
(38)
ヒカルの哀願を、社は切ない思いで聞いていた。先程は理性を失って、ヒカルの身体の
ことを考えずに突っ走ってしまったが、今は、欲望を吐き出して多少はゆとりが出来た。
しかし、身体の奥底では熱が燻り続けている。自分は、まだヒカルを必要としていた。
それに何より、ヒカルを泣かせるだけで終わってしまっては、男としてあまりに情けない。
「や…!ごめん…とうや…ごめ…」
また、アキラの名を呼び始めた。腕の中のヒカルは身体を強張らせ、「ごめんなさい」を
何度も繰り返している。苦しげな息遣い。でも、一体誰に対して謝っているのだろうか?
自分か?それともアキラにか?わからない…。ただ、ヒカルが混乱していることだけはわかった。
自分は性急すぎるのかもしれない。ヒカルを貪り食うことばかりに夢中になって、
肝心の相手の気持ちを考えていなかった。
ヒカルを穿つ動きを緩やかなものに変え、腕の力を弛めた。
「ん…」
安心したようにヒカルの全身から力が抜ける。社の胸にもたれかかり、完全に身体を預けてきた。
柔らかい髪に指を絡めた。フワフワした感触の猫っ毛が気持ち良い。そのまま、首筋に
滑らせる。背骨に沿って、指を這わせた。
「あ…」
ビクリと身体を震わせる。背中から尻の谷間、繋がっている部分まで指を移動させ、また、
首筋へと逆に辿っていく。
手や唇でヒカルの外側を愛撫し、穿った楔で慎重に内側を探った。激しすぎないように
出来るだけ優しく……。
「ん…は…あぁ…」
苦痛を訴えるだけだった小さな口から、別のものが紡ぎ出され始めた。
(39)
社は自分の胸に顔をすりつけて、喘いでいるヒカルの顔を覗き込んだ。相変わらず、
目に涙を浮かべているが、その涙は先程までのものとは違う。頬は紅潮し、呼吸は荒く
熱い。
「はぁ…やぁ…」
社の二の腕に添えられていたしなやかな腕が、優しく首に絡んできた。社は、ヒカルを
責める腰の動きを少し早めた。ヒカルの身体が、反り返った。
「…!あぁん…!やだ…とうやぁ…」
社が腰を打ち付ける度、ヒカルの口から、切なげにアキラの名前が漏れ出てくる。
「あ、あ、あ、とうや…とうやぁ…」
強くしがみつき、自らも腰を揺すりながら、
「とうや…とうや…好き…すきぃ…」
と、社の耳元で囁き続けた。
密着した胸にヒカルの勃ちあがった乳首が擦り付けられる。腹部に感じるヒカル自身は
これ以上ないくらい昂ぶっていた。甘い声。甘い吐息。すべてが社を酔わせた。ただ一点を除いて……。
社は動くのをやめ、自分にしがみつくヒカルの腕を振り解いた。
「…?や…とうや…なんで…?」
快感に支配され、焦点の合わない目でぼんやりと社を見つめる。突然、断ち切られた快楽に
焦れているのか、自分で小刻みに腰を揺さぶった。ヒカルの華奢な肩を強く掴んだ。
「オレは塔矢やない…!社や!」
「……やしろ?」
「そうや…」
指が肩に食い込んでいる。ヒカルが顔を蹙めて、そこから逃れようと身じろいだ。
「やぁ…痛い…痛いよ…離して……」
「アカン…オレの名前ゆうてみ?」
泣き始めたヒカルに顔を寄せ、優しい声で問いかけた。
「…う…や…やしろ…」
しゃくり上げながら、ヒカルは答えた。ヒックヒックと喉の奥が鳴っている。
「ええ子や…」
社は満足げに笑うと、ヒカルを再び突き上げ始めた。
(40)
「あ…はぁ……」
社にあわせて、ヒカルも動いた。二人ともかなり追いつめられていた。
「あ、あ、もっと…もっと…して…」
ヒカルの甘く切ない声が自分を煽る。社はヒカルを強く抱きしめると、二、三度大きく
突き上げた。
「あ…あぁ―――――――」
ヒカルはか細い悲鳴を上げ、身体を痙攣させた。社はその震えがおさまるまで、ヒカルを
抱く力を弛めなかった。
脱ぎ捨てたシャツで、グッタリとしているヒカルの身体を丁寧に拭いた。あちこち、
汗や精液でドロドロに汚れていた。
最初、ヒカルはされるがままだった。やがて、焦点の定まらない瞳に理性の光が戻り、
荒い息を吐いていた胸の鼓動が静まり始めると、ヒカルはシクシクと泣き始めた。
目から大粒の涙を流し、社から顔を背けるように泣いているヒカルを見て、罪悪感が芽生えた。
ヒカルは何度も「やめて」と頼んでいたのに、自分はそれを拒んだ。激情が去ってしまうと、
自分はとても残酷なことをしたのではないか思い始めた。
「……進藤…」
ヒカルに触れようと手を近づけたとき、その細い肩がビクリと揺れた。慌てて、手を
引っ込める。
「…スマン…堪忍な…」
触れることも出来ず、気の利いた言葉も出てこない。社はただ謝るだけしか出来なかった。
ヒカルは小さく首を振った。
「そやけど…オレ…本気で好きやねん……オマエのこと…」
身体を縮こまらせて、目の前の小さな少年は何度も首を振った。
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