痴漢電車 お持ち帰り編 36 - 40


(36)
 アキラはヒカルをじっと見つめ続ける。ドキドキして息が詰まる。そんなに見ないで欲しい。
居心地悪いことこの上ない。
「………もし、好きだって言ったらどうする?」
「そりゃあ、メチャクチャ嬉しいよ。浅草サンバカーニバルで踊り狂いたいくらい……!」
「………………………………」
冗談なのだろうが、冗談を冗談として容易に受け取れないのが、塔矢アキラだ。面白いかも
しれないけれど……髪を振り乱してサンバを踊るアキラは見たくない………。
「じゃ、じゃあキライって言ったら?」
「言わせない!」
間髪入れずに答えが返ってくる。
「………いや…例えばだから………」
「“好き”って言うまで、ねばる!」
「………………………………」


(37)
 コイツはバカだ…………と、ヒカルは思った。頭はいいけど賢くない。それでは、選択肢は
他に無いってことではないか。最初からそれ以外用意していないくせに……………ホントに
どうして、それで罷り通ると思うんだよ!?
「それじゃあ、わざわざオレに訊く意味ネエじゃん………」
「ある!進藤の口から“好き”って言ってもらいたい!」
「……………………図々しい…」
ファーストキスも初Hも強引に奪っておいて、その上“好き”と言わせようなんて……
そんなことを臆面もなくよく言えるものだ。
 「進藤………」
アキラが情けない声で自分の名を呼んだ。こんなアキラを見るのは初めてかも…………。
あまりにもつれないヒカルの態度に狼狽えている。
 本当にバカなヤツだ。だけど、こんなバカヤローを可愛いと思う自分は、それに輪をかけたバカだと思う。
「進藤…………」
「オマエなんかキライだよ!」
ヒカルはべーっと舌を出した。


(38)
 ヒカルの言葉にショックを受け、ヒカルのアカンベに胸をときめかせた。あんなに憎たらしい
言葉を吐きながら、どうしてそんなに愛くるしいことをやってみせるのだ。
 「オマエなんかスケベだし、ヘンタイだし、人の顔見りゃ盛りのついた犬みてえにヤリたがるし………」
「ホントにサイテーだ!!」
キツイ………全て本当のことだけに胸に突き刺さる。
「オレなんて、キスもしたこと無かったのに………」
グスッと鼻をすすり、涙ぐんだ目を手で擦っている。それを見て胸の奥がシクシク痛む。
今ごろになって、罪悪感が………。その一方で、天に舞い上がるほど浮かれている自分がいる。
『やっぱり、進藤は真っ新だった…!神様ありがとう!』
にやけそうになる顔の筋肉を無理矢理引き締めた。ヒカルに自分が今考えていることを
知られたら、もっと泣かれてしまう。。

 「だから…………………………」
ヒカルが一旦言葉を切った。
「責任とれよ!バカヤロ―――――――――――――――――――――――――――!!」
真っ赤な顔して、鼻息も荒くヒカルが言い放った。

………………………………………………………………………………それってつまり………
「ボクを好きだと受け取っていいのかな?」
「ちがう!オマエなんか大キライだ!!」
ヒカルがプイッと横を向いた。ヒカルの真っ赤な耳たぶや、首筋が、アキラの目の前に晒された。


(39)
 「………“好き”って言って欲しいな………」
「言わねえよ!ぜってェ言わねえ!」
ヒカルはガンコに言い張った。
「どうしたら、言ってくれるのかな?」
「言わねえってば!」
顔を赤く染めたまま、そっぽを向くヒカルが可愛い。
「じゃあ、言わなくてもいいから、キスしてもいい?」
ちらりとアキラを流し見て、コクンと頷いた。

 ヒカルを抱き寄せ、唇に触れた。ペロリと舐めてみる。甘いクリームの味がした。それが、
ヒカル本来の味であるような気がして、飽きずに舐め続けた。ヒカルは、ケーキとかお菓子とか
甘くて優しいもので出来ているに違いない。時々、ちょっと辛口だけど、それはご愛敬だ。
「や…舐めンな……くすぐったい…」
ヒカルがくすくすと甘い笑い声を漏らした。


(40)
 とろけるような甘さにだんだんキスだけではガマンできなくなってきた。
「…ん!」
ヒカルを強く抱きしめ、愛らしい唇に舌を差し入れた。
「んん………」
ジタバタと藻掻くヒカルの腕を身体ごと拘束し、動きを封じる。
 小さな身体を自分の膝の上に乗せ、カラフルなTシャツに手をかけた。
「ん―――――――――!」
 だが、ヒカルも大人しくされるがままになってはいない。不自由な手も、足もメチャクチャに
振り回して暴れている。
 その暴れぶりにアキラも手を離した。途端に平手がとんできた。
「バカ!ヘンタイ!スケベ!セロリ!」
ヒカルがハアハアと喘ぎながら、怒鳴った。
『セロリ…………』
頬の痛みよりも“セロリ”が気に掛かった。
「それがヤダって言ってるんだ!下にお母さんがいるんだぞ!」
「………ゴメン…つい……」
アキラは素直に謝った。今度は自分のどこがいけなかったのかをちゃんと理解している。
 「………ったく…オマエん家でだったら………いいけどさ………」
ボソッと呟かれた言葉をアキラは聞き逃さなかった。
「じゃあ、すぐに行こう!」
と、アキラはいきなりヒカルを抱き上げた。
 火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか、抱き上げられたヒカルもビックリしている。いくら
ヒカルが軽いと言っても、自分も決して頑丈な方ではない。全ては、ヒカルへのリビドーが
なせる技だった。



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