無題 第2部 37
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ミネラルウォーターの小瓶を二つもって寝室に入ると、緒方のバスローブを羽織ったアキラ
は広いベッドの端にぼんやりと腰掛けていた。
入ってきた緒方を見て、アキラはほんの少しだけ、だが確かに、不快げに眉をひそめた。
その意味が分からずに小瓶をサイドテーブルに置いて、彼の横に腰を下ろし、尋ねるように
アキラを見ると、その手が伸びて緒方の眼鏡を外した。
「かけないで。」
アキラの黒い瞳が、緒方の薄い色の瞳を直に覗き込む。
「ボクの前では…ボクといる時は外していて。」
そして緒方から視線を逸らさないまま、手に持った眼鏡をサイドテーブルに置いた。
そして、もう一度、その手を緒方に伸ばし、その輪郭を確認するように頬に触れながら、言った。
「ボクと…二人でいる時には外していて。」
「おまえが、そう言うのなら。」
その言葉に、アキラは僅かに安心したように微笑んで、そのまま緒方の顔を引き寄せ、その唇
にそっと触れた。
緒方はそのままアキラの身体を押し倒し、深い、静かなキスを与えた。
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