パッチワーク 37
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三星杯から帰国したあと昔に戻ったように神経質になっていたのは感じていたが先生も療養が
必要とはいえ命に別状はなかったのでさほど重大には考えていなかった。研究会は緒方さんが
引き継いだ形になっているからかアキラはいつの間にか参加しなくなり、緒方さんも先生の
碁会所には出入りしなくなった。自分はどちらにも参加していたが先生が日本にいらした頃に
比べるとアキラに会う回数は格段に少なくなっていて気が付いていなかった。妻は碁会所で
あっているにも関わらず気づかずにいた自分を責めていた。妻が会計を払おうとしても会計カードは
既にご家族にお渡ししてありますからと断られ。汚れ物も家族でないからと持ち帰りを断られ、
面会も診療の妨げになるからの制限され、妻にできたことは見舞いの品を持って行くことくらい
だったがそれも禁止事項が多く着替えくらいしか用意できなかった。でも着替えもわからない誰か
が必要な分を用意している状態だった。妻はとうとう仕事が休みの日に病院のナースステーションに
張り込みに行き、アキラの汚れ物を受け取ったのが髪が長くて細身で妊娠している女性なのを
つきとめた。アキラの彼女かもしれないと考え、アキラに彼女がいたこと、その彼女が
妊娠していたこと、アキラが自分に彼女を紹介してくれなかったことに妻はショックを
受けていた。
対局室前でアキラを捕まえた。
「ちょっと、訊きたいことがあるから対局のあと待っていてくれないか」
「どうしたんです、芦原さん。怖い顔して。いいですよ。」
横を通ろうとした人が肩に触れてバランスを崩してしまった。
あわてて体を支えようとしたが「軽い」。
「すみません。」声がいつもと違うが進藤君だった、彼もアキラと同じほどやつれていた。
アキラはショックを受けたように進藤君を見つめていた。
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