落日 37
(37)
遠い廊下の端に、ちらりと切りそろえた黒髪が見え、ヒカルは目を見張った。
次の瞬間、彼を追う。
優雅な貴族たちが眉をひそめて自分を振り返る事など気にしない。
おまえなら。
おまえなら、あんな事は言わないだろう。
知らない、などと言いはしないだろう?
どこにいったんだ。いるんだろう?出て来いよ。
見回すと庭の端にまた、彼の黒髪が翻るのが見えた。
「賀茂!」
大声で呼ばわると、彼は訝しげに振り返る。
「なあ、おまえなら、」
そう言いながらヒカルは彼に駆け寄った。
佐為を知らないなんて言わないだろう?皆が嘘を言うんだ。佐為なんか知らないって、そんなの
はいなかったって、皆で俺を騙そうとしているんだ。
でも、おまえなら、おまえならそんな事は言わないだろう?
「賀茂、」
さらりと髪を揺らして向き直った彼はヒカルの顔を真正面から捕らえる。
けれどヒカルを見た彼はまるで知らぬ人を見るような表情でヒカルを見据えた。
「君は……誰?」
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