失着点・龍界編 37
(37)
もう遅かった。アキラはぎりりと歯噛みをした。どんなに考えを巡らせても
盤上の石の流れが示す行き先にアキラが選べるものはなかった。
「…ありません…」
半ば呆然としたようにアキラは碁盤の上を見つめた。
「…こんな醜い対局は…今まで体験した事がない…。」
まるで沢淵の囲碁に対する、囲碁界に対する憎しみが盤上にドス黒く
渦巻いているように感じた。
「約束は約束ですね…。」
沢淵は正座するアキラの背後にまわるとゆっくりとアキラの制服の上着の
前を外し、肩から外し始めた。
三谷と向き合っていたヒカルだったが、あとわずかで唇と唇が触れあう
所まで寄せながらヒカルの動きはそこで止まってしまった。
押さえきれない怒りと動揺で曇るヒカルの目と違ってあまりに三谷の目は
まるで虚無を見つめるように無表情だったからだ。
「…どうしたんだ、進藤。…しないのか?」
それでも動かないヒカルに三谷はため息をつくと、三谷の方からヒカルを
壁に押し付け首筋にキスをしてきた。
三谷は積極的にヒカルの皮膚に唇を這わし、そのまま口元へかぶせ激しく
ヒカルの唇を奪って来た。ヒカルの舌を吸い取り、歯と舌で愛撫する。
「坊や達、なかなか激しいじゃないか」
別室で男達は食い入るようにモニターを見ている。
そのまま二人は縺れあうようにしてベッドの上に倒れ込んだ。
|