Linkage 37 - 38
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「……ちょっと待ってくれ!この包みはダンヒルじゃないかっ!?」
緒方は唖然として包みとアキラを交互に見ると、頭を抱え込んだ。
その様子をアキラは不思議そうに見つめている。
「……どうかしたんですか、緒方さん?もしかして……ダンヒルは嫌いなんですか?」
少し悲しそうな表情で自分を覗き込むアキラに気付き、緒方は慌てて顔を上げると
決然と首を横に振った。
「いや、好きだ!ダンヒルは大好きだよ、アキラ君」
緒方の言葉にアキラが嬉しそうに微笑んだ。
「開けてみてもいいかな?」
アキラは更に嬉しそうにうんうんと首を縦に振る。
リボンを解き、包装紙を丁寧に剥がすと、緒方はひとつ大きく呼吸をして箱をそっと開けた。
中身は銀色に輝くシャープなデザインのライターだった。
愛煙家の緒方からしてみれば、ダンヒルのライターは欲しくて堪らなかったものの、
自分にはまだ分不相応な気がしてなんとなく手を出せずにいた一品である。
これまでにダンヒルのショップに何度か足を運んでいた緒方だったが、アキラからの
プレゼントは新作なのだろうか、同じデザインのものは見たことがない。
だが、大凡価格の見当はつく。
一般的な小学6年生がおいそれと買える品物ではない。
「随分高かったんじゃないか?」
アキラが裕福な家庭の子であることは緒方も十二分に承知してはいるが、かといって、
子供にみだりに高額の小遣いを渡すような家庭ではないことも知っている。
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心配そうに尋ねる緒方に、アキラは苦笑しながら答えた。
「……ええ、ちょっと高いなぁと思ったんですけど……。お正月に家に来た人が格好いい
ライターを持っていて、どこのものか訊いたらダンヒルだって……。ボク、緒方さんは
きっとこういうのが似合うだろうなと思ったんです!それに、お正月にはいろんな人から
お年玉を沢山貰ったから、心配しなくても大丈夫ですよ」
アキラの言葉に一応納得する緒方だったが、なんとなく申し訳ない気持ちも残る。
だが、手の中で渋い輝きを放つライターのひんやりとした感触や、確かな重みに、満足感から
自然と顔が綻ぶ自分の様子を我が事のように嬉しそうに見つめるアキラの笑顔に、緒方の
気持ちは吹っ切れた。
「ありがとう、アキラ君。ずっと大切に使わせてもらうよ。なにせ、ダンヒルのライター
といえば愛煙家垂涎の品だからな」
「そう言ってもらえてよかったなぁ!でも……煙草の吸いすぎには注意してくださいよっ!」
緒方がプレゼントを喜んで受け取ってくれたことに、心から嬉しそうな表情を見せるアキラ
だったが、緒方の健康を気遣ってそう忠告すると、いかにも子供らしく頬をぷくっと膨らませた。
緒方はそんなアキラを笑いながら宥めると、ソファから立ち上がり、PCデスク上の煙草を
取りに向かった。
早速プレゼントされたライターで火をつけ、一服し始める。
「……さて、プレゼントのお礼じゃないが、今度はアキラ君の相談とやらを聞かせてもらおうか」
紫煙をくゆらせながら穏やかにそう語りかける緒方に、アキラは先程とは打って変わって深刻な
眼差しを向け、小さく頷いた。
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