闇の傀儡師 37 - 38
(37)
「…なるほど、進藤は、こうい目に遭わされていた訳か。」
「ふふ、まるで自ら望んでここに来たような言い種だな。」
「…その通りだと言ったら?」
「随分気の強い坊やだ。だが、その態度がどれだけ続くかな。」
男の姿が遠のき、入れ代わりにアキラよりひと回り大きな木の人形が近付いて来た。
その股間には太く大きな男根がそそり立っている。
人形の口元がにやりと歪んだように見えて、男の声がした。
「いずれはヒカルくんもこうして味わうつもりだった。…あと少しのところで
邪魔をされたが、まあいい。実は君のことがとても気に入ってね。
君の体でヒカルくんの分まで楽しませてもらうことにしたよ。写真の通りにね。」
翌日、
いつものように碁会所で指導後をするアキラ。
そこへヒカルが顔を出し、アキラの仕事が終わるのを待つ。後でヒカルの家にアキラが行き、
碁を打つ約束になっている。もちろん目的はそれだけではない。
「お待たせ、進藤。何か買っていった方がいいのかな。」
「ううん、何でも揃ってるから大丈夫。母さんがいないから寿司をとるよう言われているし。それより…さ、」
ヒカルは一刻も早くアキラと部屋で二人きりになりたがっているのは態度からあまりにも分かりやすかった。
アキラは優しく微笑んでヒカルと並んで歩く。
「あれ、…塔矢、どっか怪我してる?」
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「ううん、どうして?」
「少し歩き方が変みたいな…足、引きずってない?」
「べつに。何だったら、後で隅々まで見てみればいい。」
そう言われてヒカルは真っ赤になった。
「べ、別に、気のせいならいいんだよ。」
「さすがに長時間無理な体位ばかりとらされたからな…」とボソリとアキラが呟く。
だがそれはヒカルの耳には届かなかった。
後日、都内のあるマンションの一室で、その部屋に住む男が意識不明の状態で発見された。
ベッドに横になったまま数日間そのままだったらしく、それ以前に何らかの体力的な理由で
発見当時の衰弱が激しかった。
男は人形製作のマニアだったらしく、部屋の中には様々な人形が溢れ、その内のひと組が
救急隊員の印象に強く残されていた。
人形用に作られたベッドの上で、いわゆる“交わり”のポーズで組まれていて、
知らせで駆け付けた家族が「恥をかいた」とすぐに周囲の人形とともにそのひと組を
廃棄したということだった。
ゴミの山の中の一角でその木の人形は今でも人に届かぬ声で叫び続ける。
「た、助けてくれ、私の魂はまだ元に戻っていないんだ。戻れないんだ。シンクロしすぎて…、
あいつのせいだ。あいつが、私を誘って私の魂をこの人形の中に縫い付けやがったんだ…!!」
〈了〉
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