金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 37 - 38


(37)
 暫く二人で抱き合ったまま、身動ぎしなかった。ヒカルは照れて、顔を再び伏せていた。
静かな公園の中で、二人の吐息だけが耳に届く。
 沈黙を破ったのはアキラが先だった。
「…進藤…」
呼びかけた声に腕の中のヒカルがピクリと反応した。
「………ボクの家に来る?」
顔を伏せたまま、ヒカルは小さく…だがしっかりと頷いた。

 手をつないで、駅の方へ向かう。
「電車で帰るの?」
ヒカルがアキラの顔を横から覗き込んだ。ほんのりと頬を染め、とろけそうな笑顔をアキラに
向けた。
 アキラは首を振った。だが、視線はヒカルから外さない。もう、彼に自分の気持ちを隠す必要はないのだ。
心を奪われずにはいられないこの笑顔を飽きるほど眺めていてもかまわないのだ。
「また、チカンがでると困るからね…」
「今度は離れないよ。オマエがちゃんとガードしてくれんだろ?」
「それはもちろん…でも、今日はタクシーで帰るよ。」
ヒカルはふーんと気のなさそうな返事をしたが、その耳元で、「一秒でも早く帰りたい」と囁くと
真っ赤になって「バカ」と呟いた。


(38)
 タクシーを待っている間も、それに乗り込んでからもヒカルは楽しそうに笑っていた。
彼の瞳が潤んでいるのも頬が赤いのも、酔っているせいではなく、照れているためだ。少し、
疑わしいが、本人が断固として譲らないので、そういうことにしておいた。

 「進藤、入って…」
玄関の灯りをつけて、ヒカルを招き入れた。人気のない廊下の奥を覗き込むようにして、恐る恐る
靴を脱いでいる。
「先生、今度はどのくらい向こうにいるの?」
「来週頭に帰ってくるよ。」
ふーんと呟く声が聞こえた。
だから、遠慮しないで―――――そう言いかけたとき、ヒカルがアキラのジャケットの袖を
ぐいっと引っ張った。
「寂しくネエ?」
寂しい―と、感じたことはない。両親への愛情がないわけではない。ただ、一人になることも
必要だし、今それを実行しているのだ。
 もともと、自分は一人でいても、苦にならない。人がいてもいなくても自分の日常生活には
余り関係ないように思えた。
 もっとも、これはヒカルのことを抜きにしての話だ。
「キミがいないときは寂しかったけど…」
 アキラの言葉にヒカルはくりくりとした大きな目をキョトンとさせていたが、すぐに
にっこりと笑って頷いた。



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