黎明 37 - 38
(37)
夜半、浅い眠りにつきかけていたアキラに、小さな呻き声が届き、彼は身を起こした。
手燭を掲げながら隣室へと赴くと、果たして薄闇の中に寒さに震えてうずくまる彼の姿があった。
すばやく火桶に新たな火を起こしてから、彼の元へとより、肩に手をかけ、彼の名を呼んだ。震え
ながら彼はアキラを見上げ、腕を伸ばしてアキラの身体に抱きついた。小さく震える彼の背を抱き
しめながら、また、彼の名を呼んだ。
呼ばれて、アキラの腕の中でヒカルが小さく身じろぎした。そして彼を抱いたまま身を横たえようと
するアキラを押しとどめる力を感じて、アキラはその異変にもう一度彼の名を呼んだ。
「…ヒカル?」
僅かに身体を離すと、ヒカルがアキラを見上げ、先ほどまではアキラにしがみついていた手で、
震えながらアキラの身体を押し戻した。そしてぼろぼろと涙をこぼしながら、ヒカルはアキラを見
つめて頑なに首を振った。縋るように見上げる瞳の中に、けれど強い意志を感じて、アキラは彼
の身体から己の身体を引き離した。
追い縋るように彼の手が伸びる。けれど伸ばされた手は中空で止まり、彼の意思がそれを押し
とどめる。彼の内の葛藤をそのまま示すようにその手が震える。震える指先は次の瞬間、彼自身
の身体を封じ込めるように己の腕に巻きついた。
為す術もなく、アキラはただ彼を見つめていた。
抱えるように自らの身体を抱いていた彼は小さな悲鳴を上げて、そこへうずくまった。
己の内の嵐に抗うように、彼は小さく縮こまり、呻き声とも悲鳴ともつかぬ声が彼の喉から漏れた。
(38)
奥歯を噛み締め、拳を強く握り締めて、彼の姿から目を背けた。すると耳にはただ彼の呻き声
だけが届いた。
堪え切れぬ悲鳴がアキラの耳を苛み、耐え切れずにアキラはその部屋から逃れた。壁を伝い、
震える足をなんとか進ませて、怯えるようにその部屋から逃れた。もはやあの部屋に、己のいる
べき場所はない。彼のためには、自分はもはや必要でない。彼が彼の意思で嵐と闘おうとする
ことは、彼自身の力で、己を取り戻そうと闘うことは、喜ぶべき事である筈なのに。くず折れそうに
なる身体を支えるように、柱にしがみ付いた。
その時、逃れるようにヒカルから離れようとしたアキラの耳に、かつて聞いた事もない程の絶叫
が届いた。その響きに異変を感じたアキラは顔色を変え、もといた部屋へと走った。
「ヒカルッ!!」
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